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2023年7月号  №193 号 通巻877号
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 解説 ウエストミンスター信仰告白 (14)
               
                    岡田  稔著
                  (元神戸改革派伸学校長)

第七章 人間との契約について(1)

1 神と被造物とのへだたりはまことに大きいので、理性的被造物が創造主としての神に対して服従しなければならぬ義務があるとはいえ、彼らが自分の祝福や報いとして、神を喜ぶということは、神が契約という方法で表わすことをよしとされた神の側のある自発的なへりくだりによる以外には、決してできなかった(1)。

  1 イザヤ40:13-17、ヨブ9:32,33、サムエル上2:25、詩113:5,6、
    詩100:2,3、ヨブ22:2,3、ヨブ35:7,8、ルカ17:10、行伝17:24,25

一 道徳には二つの原則的な主張がある。一つは、善は絶対的になすべきもの、ということであり、二つは、善をなす者には善き報酬がある、ということである。前者のみを強調
すると厳粛主義になり、後者のみになると功利主義となる。キリスト教は両面を共に肯定している。
 前者は、神は創造主であるから、絶対主権者である、という信仰を基礎としており、後者は、ここで告白されている神の契約ということを基礎としている。
 イエスの倫理思想は、もっとも高遠な純粋なものであるにもかかわらず、一般に「山上の垂訓」と言われている教えの内にあって、報酬の観念が根本的になっており、ローマ人への手紙の倫理も、この点まったく同一のものと言える。
 聖書で否定されているのは、功績の観念であって、報酬の観念ではない。恩恵の思想と矛盾するのは功績思想である。すなわち、人間が自力で善をなすことができる。神はその善に対して、救いとか永遠にいのちとかを代償として与える義務を負うという思想である。
 しかし、報酬ということは否定されてはいない。神は公正な審判者である限り、善には善の悪には悪の公正な報酬を与えるのである。ところで、このような観念は造り主なる神という信仰とは調和しにくい。ここに契約という別の関係が存在しなければならない。契約はその事柄に関する限り、当事者間に一定の対等関係が存在する意味であり、この限りで神の側の謙遜ということが前提となる。
 キリスト教倫理は、第一に人が神のかたちに造られたという事実、第二に神が人間の線まで降下されて契約関係をお立てになったという事実の上に成立していると言うべきである。

4d1e0be4.jpeg2 人間と結ばれた最初の契約はわざの契約であって(1)、それによって、本人の完全な服従を条件として(2)、アダムに、また彼においてその子孫たちに命が約束された(3)。

  1 ガラテヤ3:12
  2 創世2:17、ガラテヤ3:10
  3 ロマ10:5、ロマ5:12-20

二 この契約は、まずアダムに対して与えられたもので、わたしたちはそれを、「業の契約」と呼んでいる。神がこの契約にそういう名称をつけられたというわけではないから、場合によっては、これを「いのちの契約」とも呼ぶ。
 この契約の成立事項を記すと、
1 アダムとの契約であり、アダムをかしらとする全人類との契約である。
2 永遠のいのちを与える約束である。
3 自身の完全服従を条件とする。
4 その条件を果たさない場合は死をもって罰する。
5 神の律法への完全服従は、この場合「善悪を知る木の実を食べてはならない」という命令として試された。また、その期間は神のよしとされた一定の期間であったと理解されている。
 わたしたちは、このような第一の契約の存在を創世記2、3章からのみ断定するのではな
い。むしろ聖書全体からの推論としてであって、それは第二の契約の成立から逆に断定さ
れるものである。また、前項で言ったように、道徳における報酬性という点から断定され
る。
 すなわち、約束は契約なくしてはありえないのである。約束のあるところには、かなら
ず契約がある。永遠のいのちというものは、単に人間が空想し、自力で獲得しようと努力
して手に入れる、というようなものではなく、その始源において、人間への神の約束とし
て与えられた観念であると断定せざるをえない。

3 人間は自分の堕落によって、自らを、この契約によっては命を得られないものにしてしまったので、主は、普通に恵みの契約と呼ばれる第二の契約を結ぶことをよしとされた(1)。それによって、神は罪人に、命と救いを、イエス・キリストによって、価なしに提供し、彼らからは、救われるためにキリストへの信仰を要求し(2)、そして命に定められたすべての人々が信じようとし、また信じることができるようにするために、聖霊を与える約束をされた(3)。

  1 ガラテヤ3:21、ロマ8:3、ロマ3:20,21、創世3:15、イザヤ42:6
  2 マルコ16:15,16、ヨハネ3:16、ロマ10:6,9、ガラテヤ3:11
  3 エゼキエル36:26,27、ヨハネ6:44,45

三 神は人間の堕落によって、第一の契約の罰則を発効した。しかし、神の無限のあわれ
みといつくしみとは、人類のすべてがこの堕落のうちに滅亡し去ることを求められなかっ
た。第一の契約の約束ごとであるいのちを与える第二の道を開かれた。この告白文をよく
読むと、いのちの約束としてではなく、むしろ、約束されたいのちの附与という新しい方
法として述べられていることが特色である。
 第二契約を「恵みの契約」と呼ぶのも、かならずしも聖書にそのように名づけられてい
るからではなく、わたしたちの習慣である。なぜそう呼ぶかと言えば、第一に、すでに第
一の契約で失格したわたしたちへの再度の神の側の謙遜に基づくものであり、しかも、私
たちの側の行為を要求するのではなく、まったく神の自由な提供として与えてくださるの
であり、ただ信仰を条件としてくださるのであり、その信仰すらも神の賜物なのである。
 すなわち、信仰するために己れの聖霊を与えるという約束なのである。いのちを与える
約束と言われる代わりに、いのちに定められた者に、聖霊を与える約束だと告白されて
いることは、大いに注意を要するところである(ルカ11:13を参照)。
 
この文章は月刊「つのぶえ」紙に1951年(昭和26)10月号から1954年(昭和29)12月号まで書き綴ったものを単行本にしたものです。「つのぶえジャーナル」掲載には、つのぶえ社から許可を得ています。「ウエストミンスター信仰告白」は日本基督改革派教会出版委員会編を使用。
単行本購入希望者は「つのぶえ社」に、ご注文下さい。¥500
465-0065 名古屋市名東区梅森坂4-101-22-207「つのぶえ社」宛

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