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2023年7月号  №193 号 通巻877号
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 ビルマ

  戦犯者の獄中記  (32)  遠山良作 著

 

昭和22年

 

3月31日

何も読むものもなく、退屈でしかたがないので、今日も聖書を開いてみるが、理解できないことばかりである。マタイ、マルコ、ルカ、同じようなことが書いてある。何故だろう。私のような学問のない者にはわけがわからない。どうも私には不要の本の様な気がする。   運動の時間が来たので本を閉じて外に出る。すでに東大尉も運動に出ておられたので、歩きながら次のことを東大尉に話した。

 「私は日本の勝利を信じて戦って来たが、敗戦というこの現実の前に悲しみと無念で一杯である。だけど大和民族がこの地球上に生存している限り、五十年先か百年先か分からないが、この仇を討って、私たちの悲願である「八紘一宇」(はっこういちう)の理想の世界をこの地球上に実現することこそ、民族がなさなければならない使命であると思う」と話した。

 東大尉は「なあ遠山、お前のような考えを持っていたら、この世界から戦いは絶えないぞ。これからの日本は軍備もない、平和な新しい日本を作ることが、敗戦日本が生き残れる唯一の道である。そのためには日本が総ざんげをする時である。そのときに新しい平和な日本が生まれるのだ」と諭してくださった。

 今まで何一つ悪いことをした覚えもない。また間違ったことをしたとも思っていない自分である。今晩はゆっくりこのことを考えてみよう。

 

4月2日

運動の監視に来た今日の英兵はうるさくない。死刑囚を除いて全員を一度に出してくれた。時間も何時もより長い。お陰で林大尉と、歩きながら話が出来た。林さんは「モラロージジ」の創立者広池博士の門下生で、千葉の道場で修業し、また岡谷で製糸工場の経営をしていた部隊の将校である。彼は英語を勉強するために、英語の聖書を読んでいる。

 私は「林さん、聖書に書かれている奇蹟は、全く信じることができないけれども、倫理の書物として読むならば、価値のある読物だと思います。だが内容には難しいことがたくさん書いてありますね。例えば「人が右の頬を打てば左の頬を向けよ」と書いてありますが、私にはその意味がよく分かりません。林さんはどう思われますか」。

 林「俺にもよく分からないので、学者(いつも本を読んでいる英兵にあだ名)が来たら聞いてみたいと思うが、やはり「目には目、歯には歯」というのが自然だと思うよ。だがね君、聖書にはすばらしい言葉がたくさん書かれているよ。

 あの片隅に小さな花が咲いているだろう。あの花をじっと見ていると、実に美しいことに気が付く。聖書の中に「ソロモン王が着飾っていた、美しい飾り物も、野に咲いている草花の美しさには及ばない」と書いてある。

 人間がどのように精巧に作った飾り物でも、自然に咲いた花の美しさとは比較できないと言う意味だと思う。自然の花には生命があるから美しいのだ。聖書から学ぶことが多くあるが、奇跡や神話の記事も多く書かれている。「クリスチャン」になるには、聖書のすべてを信じなければ「クリスチャン」にはなれないよ、と言われた。

 私はとてもクリスチャンにはなることは出来ないし、その気もないが、クリスチャンである加納衛生兵の優しい笑顔を思い出す。

註 「八紘一宇」=全世界を一つの仲の良い家とする。戦中、時刻の海外浸出を正当化するために用いた標語。

 

この文章の転載はご子息の許可を得ております。

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書籍紹介
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 社会意思決定

日本評論社
ISBN978-4-535-55538-9
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 共著者・編者
鈴木達治郎
電力中央研究所社会経済研究所研究参事。東京大学公共政策大学院客員教授
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授
松本三和夫
東京大学大学院人文社会系研究科教授
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富山大学経済学部経営法学科准教授
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電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
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東京大学大学院法学政治学研究科博士課程
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東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
馬場健司
電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
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おすすめ本

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教会における女性のリーダーシップ
スーザン・ハント
ペギー・ハチソン 共著
発行所 つのぶえ社
発 売 つのぶえ社
いのちのことば社
SBN4-264-01910-9 COO16
定価(本体1300円+税)
本書は、クリスチャンの女性が、教会において担うべき任務のために、自分たちの能力をどう自己理解し、焦点を合わせるべきかということについて記したものです。また、本書は、男性の指導的地位を正当化することや教会内の権威に関係する職務に女性を任職する問題について述べたものではありません。むしろわたしたちは、男性の指導的地位が受け入れられている教会のなかで、女性はどのような機能を果たすかという問題を創造的に検討したいと願っています。また、リーダーは後継者―つまりグループのゴールを分かち合える人々―を生み出すことが出来るかどうかによって、その成否が決まります。そういう意味で、リーダーとは助け手です。
スーザン・ハント 
おすすめ本
「つのぶえ社出版の本の紹介」
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 「著者のことば」
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おすすめ本
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