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ビルマ
戦犯者の獄中記 (35) 遠山良作 著
昭和22年
4月9日
―ハンストを計画―(1)
昨日夕方である。A軍曹と、その隣りにいるB上等兵とが話をしていたとの理由で、二人は房の外に出されて、英兵に殴打(5つ6つ)された上、罰として半減食にされた事件が起きた。
ここいる多くの者は、取調べ中に殴打したとの理由で裁判され、戦犯者の烙印を押されている。殴打されたB上等兵などは、捕虜を3つ叩いたとの理由で15年の刑を受けているのである。ただ話をしたからといって、殴打することは、戦勝国だからといっても許されないはずである。
敗戦以来われわれは英人に対して、自信を失い、どんな無理を強いられても、負けたのだから仕方がないと思って、言われるままに黙って従って来た。これで本当に良かったのかと、疑うことも、しばしばである。
今もこの獄房の片隅には沢山の蚊が昼でもいる。夜になると幾千の蚊が、私たちの血を求めて襲ってくる。この蚊を防ぐために刑務所は、防蚊油と「マラリヤ」の予防薬を毎日支給してくれる。夜になるとこの防蚊油を、露出している顔や手に塗って蚊を防ぐのである。防蚊油はいやな臭いがするので、蚊はぶんぶんと音を立てて、露出したあたりを飛び回るが決して止まることはない。しかしこの臭いも二時間位しか効力がないので、あとは上着や、じゅばんで顔や手を包んで防ぐのである。
雨期前のビルマの暑さは日本の夏と比較出来ない。その上、風通しの悪い独房であるから、たまったものではない。むし風呂に入ったようである。こんな日が幾日も続く。どの友を見ても、目に見えて痩せて行くのがよく分かる。私も不眠のためだと思うが食欲が減退して、15オンスの給与の食事も半分位しか食べることが出来なくなった。
この状態を刑務所側に再三訴え改善を要求した。また外部にいる部隊も、独房にいるわれわれに対する待遇改善について、交渉してくれた由であるが、一向に改善してくれないのみか、むしろ厳しくなるばかりである。
こんな状態が続くなら死んだほうが楽なような気さえする。捕虜収容所で捕虜の待遇が悪かったとの罪で所長であった田住大尉は無期の刑を受けている。この非道としか 思えない英軍に対して、これでもじっと耐えるべきか、それとも自らの力で何とか打開するかである。残された道はただ一つである。それは「ハンガーストライキ」で抗議する以外に道はない。
この文章の転載はご子息の許可を得ております。
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
いのちのことば社
スーザン・ハント
「緑のまきば」
「聖霊とその働き」