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ビルマ
戦犯者の獄中記 (36) 遠山良作 著
昭和22年
4月9日
―ハンストを計画―(2)
こんなことを考えていた矢先に起きた昨夕の殴打事件である。私は同房にいる田室さんにもこの考えを話した。
田室さんは、島根県の出身者で北支の三期生で、私より一年先輩である。「シャンユウ事件」で3年の刑を受けているが、まだ他の事件で取調べを受けているので、近く
再び起訴されると思う。彼とはモールメン着任以来い共に行動し、また終戦直前には、もし日本軍が「ビルマ」から「タイ」国に撤退する時も近いその時は、「ビルマ」に残って、残置諜報の役をすることにして、その準備を進めてきた仲である。死なば共にと思っている。
お互いに気心もよく分かっているから直ぐ同意してくれた。私はその準備のために、今まで書いた日記は雑房にいる前原軍曹にこの決意を書いて、預かって貰うことにした。もし死ぬようなことがあれば、日記だけでも家に届けて頂くように依頼した。
この棟(独房)にいる友だちには「ハンスト」を実行する理由・目的を説明しなければならなかったが、監視が厳しいので、洗面場や便所で十分に話すことが出来ないので、文書を書くことにした。
監禁されている29名中の12名を選んで回覧し、同意を求めた。
文書の内容は
「今日まで戦犯者であることの理由で、英軍より不当なる取り扱いを受けてきました。今も蚊帳を取り上げられてこまっています。この件に就いては再三訴えてきましたが、取り上げてはくれません。それのみか、昨夕は英人によって友が殴打された事件さえ起こる始末です。私たちは黙ってこの事件を見過ごして良いのでしょうか。
いつも我々の背後にあって、力付け、応援してくれている日本軍もやがて日本に帰ってゆくでしょう。既に第一船、第二船は日本に帰ってゆきました。この友軍が全部帰って行った時、我々は心の支えを失うことになります。その時になってから、今まで以上の悪い処遇を受けるようなことがあっても、それに耐えてゆくか、或いは死を選ぶより道はないのです。
その時になってから私たちがどんな行動を起こしても、遅いと思います。一昨日の殴打された事件を契機として「断食闘争」する好機であると思います。戦犯者である我々が、断食した場合は、自然に「アロンキャンプ」にいる部隊にも知れることにとなります。例え我々の要求が刑務所側に受け入れられないとしても、内地に帰る部隊に、戦犯者が「断食闘争」をしていることを知ってくれたことのみでこの闘争の意義は十分に果たされると思います。生か死かの重大なる問題でありますが、私たちの趣旨を理解して賛成して頂きたいと思います。
この行動が幾人かの上級者にも相談せずに行うこと故、一時的には迷惑をかけるかもしれませんが、私たちの真意を理解して下さるなら必ず許してくださることと思います。
要求する事項は次の通りであります。
要求事項
1 歩哨が殴打した事件の解決
2 蚊帳を取り上げたことは、不当であるから返してくれること
右の趣旨に賛成者は氏名を書いてください
と独房にいる29名中12名に送った。
この文章の転載はご子息の許可を得ております。
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
いのちのことば社
スーザン・ハント
「緑のまきば」
「聖霊とその働き」