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ビルマ
戦犯者の獄中記 (38) 遠山良作 著
昭和22年
―ハンスト計画の失敗―(2)
4月12日
橋本さんより、昨日の返事が来た。
「兄のお気持ちよく分かります。それは自分も同じ悩みに陥ったからです。昨夜は食事をとる勇気もなかったほどでした。しかし自分は、この棟に主義を同じくする者が確実にいることを知っただけでも無上の喜びです。断食抗争は私たちにとっては、最後の武器だと信じています。-中略-
在緬(めん)日本軍への覚醒と、各地の戦犯者、そして敗戦日本への警鐘を策した捨石的な計画であることはよく分かります。もし失敗すれば、死であり、成功しても、第二、第三の裁判を前にしている兄等に、彼等の報復を予期しての決意だと敬服します。
さてこの棟の空気を見ますと、おそらく、兄等の大いなる抱負を知っている者があるでしょうか。・・・・。知らないと思います。故に昨日賛同者が無かったことに対して絶望されることは、尚早です。まだ信じてよい人は多数あると思います。-中略-
今まで数ヶ月に亘ってこの独房で裸で交際し、信じ合って来た友人を、一朝の失意によって失うことは余りにも寂しいことです。それのみか、この棟が益々無力化してしまう結果を怖れます。私は今朝も英人と二回に亘り口論しました。英人は私を懲罰にすると言って名前を控えて行きました。
或る人はこのことを憂いて「みんなの迷惑になる」からと注意されました。要するに、この棟には二つの思想を持っている人たちがいると思います。共に必要だと思います。
-中略-
昨日の場合は、私は賛同者の一人であり、兄等は、発起人でありました。それが見事に失敗し、面目丸つぶれでした。しかし将来に対する自信も無くなり、無念さもあることと思いますが、水に流して貰いたいのです。-中略-
先回「「火の玉」の回覧を見ました。発起者の熱意に対して、反対者がどれ程あったか分かりませんが、あれも失敗しました。あの人等ももし真剣な考えであるならば、きっと裏切られたと思っているでしょう。英人に対する抗議で失敗するたびごとに貴兄たちのような失意者が増えて来ることを淋しく思います。
今の状態では何時かは爆発することと思います。私たちはまだ敗北者になる必要はありません。何時か好機が来たら再び行いましょう。又真に死を賭して呼びかけてくる者が出たら率先してその人たちに協力しようではありませんか。それまでは沈黙を守りたいと思います。-中略-
私の率直な気持ちを申し上げます。田室曹長にもお伝えください。橋本
遠山兄へ
橋本さん宛てに出した手紙の返事である。橋本さんは私に、もっと大きな心を持ちなさい、と私を諭しての手紙のように思える。「ハンスト」を実行することは、死ぬかも知れないということである。こんな重大な問題を、例え友人だからといって、そう簡単に賛成出来るはずがない。相手の心も考えずに感情的になった自分が恥ずかしい。橋本さん有難う。
憤懣の ここおさえて さりげなく もの言う吾は 淋しく思はゆ
我らみな 敗者されば ものを言う 権利さえなく 唯耐ゆるのみ
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この文章の転載はご子息の許可を得ております。
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
いのちのことば社
スーザン・ハント
「緑のまきば」
「聖霊とその働き」