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ビルマ
戦犯者の獄中記 (40) 遠山良作 著
昭和22年
4月13日
ー橋本氏ハンストに入るー
私は昨日断食闘争を書面を読んで、直ぐに、今は耐えていくべきであることを書いて二回も彼宛に送った。彼からは何の返事もないので心配していた。もし彼が断食闘争すれば、死ぬかも知れない。私は彼をどうしても死なせてはならない。彼の刑期は軽くあと二年か三年で釈放される身である。
彼こそ新しい祖国再建に必要な人物である。こんなことで彼を死なせることはできない。どうしても中止しない時は、われわれも彼のために断食して、彼一人を死なせないと心に誓いつつ、田室兄(同房)に私の真意を打ち明けた。彼は何の返事もしない。深い思いにひたっているようである。しかし彼の頬に白く光る一すじの涙を見た。長い沈黙の後ペンを執って何か書いている。橋本氏宛である。
私も橋本氏宛に断食を中止すべきことを書いている時、一名の英人が懲罰者三名を呼び出しに来た。それから十分位後に三名は帰って来た。その後である。橋本氏より次の手紙が届けられた。
「兄等は私のために流してくれたその涙が嬉しくもあり、また、怖くもある。私の人心は世間並みの生活を求める。道心は、大義の生活を要求する。そうして、道心を鞭打つのは、故松岡大尉(処刑さる)あり、桑原中佐あり、また兄等が加わった。そして兄等は私の将来を決定ずけんとしている。私は自己を裏切りたくない。そうして弱い一人の人間でしかない。その私に兄たちは私のために尊い涙を流してくれた。
私は4月12日に断食抗争を決意した時、或いは死なねばならぬぞと思った。若し自分の主張が通らず、おめおめと生きていたとしたら日本人の恥晒しとなる。―中略―
内地にはお前を待っている女性もいるぞ、また親や弟妹が待っているではないか、まだ誰にも「ハンスト」を宣言した訳でもあるまい。止める口実は幾らでもある。お前の同志は我慢しろと言っている。若しお前が斃れたら同志二名も死ぬかも知れない。それを口実にしろと人心はささやく。だが道心は叫ぶ。予定の行動ではないか、―中略―
「今度の抗戦は日本人が正直か、英人が正直かの戦いでもある。決して小さな意地ではない。例え他に迷惑がかかるとしても死によって償われるだろう」。だが同志は留めようとしている。「明日からパンを差し入れるとも言っているではないか。お前が死ねば同志も死ぬかも知れない。万一同志が行動を共にしないとしたら、友もお前のために汚名を受けるであろう。
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この文章の転載はご子息の許可を得ております。
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
いのちのことば社
スーザン・ハント
「緑のまきば」
「聖霊とその働き」