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ビルマ
戦犯者の獄中記 (44) 遠山良作 著
昭和22年
4月29日
―天長節を迎えて―
灯のない夜の牢獄は長い。それだけに朝は待ち遠しい。まだ薄暗いと言うのに隣りの房から掃除をしている音が聞こえてくる。夜中、無数に飛び交っていた蚊も夜明けとともに何処かへ飛んで行き爽やかな朝を迎える。
今日は天長節(天皇誕生の日)。昨日から今朝のために汲み置いた水で洗顔をし、残された唯一着の軍服を着ると、急に身が引き締まる思いである。高級部員出田大佐の指揮に従って、各房から一斉に「君が代」を歌い、そして東方に向かって遥拝と万歳を三唱して天長節を祝った。
かつては大空に日章旗を掲げて陛下に弥栄をお祝いしたものである。今日は牢獄で祝う行事に感慨無量である。陛下も祖国の惨状を見てどんなにお嘆きになっていられることであろう。
明けやらぬ ひとやゆさぶり 万歳を 今日の佳き日に 我等唱えり
4月30日
―現地人の友情―
果てることもない苦しみの日々ではあるが、同房の田室さんは笑顔で、弁護士と次の裁判の打ち合わせから帰って来た。彼が戦争中に親交の厚かった「ユーセイ」(ビルマ人)は今も昔と変わることなく、彼のために協力を惜しまない。
前の裁判(シャユワ事件)にも証人として証言台に立ち、彼のために弁護してくれた。今度の事件も弁護士側の証人として立つためにモールメンよりわざわざラングーンに来ている由である。我々敗戦国、しかも戦犯者の証人に立つことはビルマ国や占領国英軍にたて突くことを意味する。よほどの覚悟がなければ出来ない。当然、報復も予想されるからである。我々の仲間でさえ自分のために友を裏切ることさえ平気で行われている現状である。
人間が落ちぶれて誰も相手になってくれない時、救いの手を差し伸べてくれるほど嬉しいことはない。現地人の証言のみを採用裁判であるから田室さんの公判もきっと有利になることと思う。「ユーセイ」よありがとう。
この文章の転載はご子息の許可を得ております。
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
いのちのことば社
スーザン・ハント
「緑のまきば」
「聖霊とその働き」