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ビルマ
戦犯者の獄中記 (49) 遠山良作 著
昭和22年
6月20日
マカ不思議なところはこの独房である。検査をされて彼等から必要なものを取り上げられると、雑房にいる戦友(容疑者)は直ぐにその品物を整えてくれる。日記を書く鉛筆やトイレットペーパー、それに洗面兼用のバケツ代わりの、かんかんまで作って、食事を運ぶ度に少しずつ差し入れてくれるのである。本当に有難い。獄中の生活とはいえ無くてはならないものばかりである。監視する側の当局はこのことを知っているのか、知らないのか・・・、監視の歩哨たちもあまりやかましく言わない。実に大らかである。われわれ日本人との国民性の違いを改めて知らされた気がした。
6月23日
―戦友の出所―
今日は戦犯者としての容疑が晴れて戦友が出所する日である。残された者は、私たち戦犯者、起訴中の者、取り調べ中の者の外に少数の残務整理(通訳者たち)の者のみである。今日まで1年半余の独房生活の中にあって、言葉では言い尽くすことの出来ない友情に涙を流したことは数えることは出来ない。空腹でどうにもならない時には、ジャングル野菜(雑草)を汁の中に入れてくれた。孤独と絶望の中に、生きる希望さえ失いがちの私を励ましてくれた友情は忘れることが出来ない。
この友等が出所するのである。この友のために心から喜び、祝福しなければならないと思えども、今日まで支えてくれた友がいなくなるのである。これから一体俺等はどうするだろうと、不安と寂しさはどうすることも出来ない。心の底に渦巻く醜い己を覗いたような気がする。
千藤君も今日出所する。彼は私の両親の住んでいる隣村(東野村)の出身者で、この刑務所に入るまでは一面識もなかったが、私が独房生活をしていることを知って、いろいろと御世話になった。耐えられない空腹の時に乾パンや煙草も差し入れてくれた。
彼は「出所するから、両親宛に伝言があるなら伝える」と言ってくれたので、今日まで書いてきた「トイレットペーパー」の日記を家に届けて頂くことにした。しかし途中検査があって迷惑をかけてはと思ったが、彼は腹にでも巻き付けて持って行くから大丈夫だと言ってくれた。両親への手紙を、食事を運んできた食器の間に隠して持ち帰ってくれた。両親宛に手紙を書くことも、今日が最後かもしれない。
出所する友に送る
ビルマの前線で共に戦った友よ
戦いに敗れた敗者への道は
高い壁に囲まれた牢獄であった
毎日水の中に米が浮いているような粥
塩汁の中に幾すじかのジャングル野菜
何回も噛んで食べた
人間の生命の強さも知った
今日まで生きられたこともみな友の情けである
ゆるされて帰る友よ
憧れの祖国の山河は
君たちを力強く抱いてくれるであろう
死か生かの戦いの中で知り得た体験はきっと
焼野と化した焦土の中に立って
新しい日本を作ってくれることを信じる
ゆるされて 祖国に帰る 戦友達の 歌声高く 獄舎かけゆく
ともがらは みな帰りゆく 今日のわれ 淋しくもあり 嬉しくもある
帰りゆく 友に託せる 獄だより 我が帰る日を 知らせ難くも
手を振りつつ ゆるされてゆく 友がらを 独房にありて 我ら見送る
*この文章の転載はご子息の許可を得ております。
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
いのちのことば社
スーザン・ハント
「緑のまきば」
「聖霊とその働き」