世田谷通信

世田谷通信

　猫　草

　（55）

　嫌な事件が世間を騒がしている。ニュースを聞くたびうんざりして、ますます人の集まる場所への外出が億劫になる。その「切りたい」とは関係ないのだが、私には「切りたくなる衝動」がある。こちらは別に物騒な話ではない。伸びすぎた植物、伸びすぎた爪、伸びすぎた髪の毛。これは自分の周囲にあると、「切りたい！」気持ちを刺激する。きっと美容師さんや植木屋さん、外科医？などもこの衝動を持っているに違いなかろうと思うのだが・・。どうなのだろう。自分の場合、この気持ちは遡ると「枝毛切りハサミ」に行きあたる。授業中、傷んだ毛先の枝毛を見つけてはプチンプチンと切る。私だけではなく、ほとんどの女子は授業中にうつむいてノートを広げ、自分の毛先と向き合っていた。

　それに酷似するのが植物の剪定である。うっかりすると１時間ぐらいすぐに経過する。枯れた花や葉、伸びすぎた枝をチョンチョン、プチプチ切る。かつての枝毛切りと同じぐらい熱中できる。手をかけるとまた美しい花をつけるのもうれしい。そのうちにお隣の植え込みも気になり、あちらの花壇も・・気になりはじめる。さすがに勝手に切るわけにもいかないので、自分の家の範囲内で我慢する。というわけでうちの花や木は異様に刈り込まれている。自分はもちろんのこと、子供の爪や髪もそうである。ちょっと伸びているとすぐに切る。ウサギだって例外ではない。猫のように爪とぎをして生え換わるわけではないので、定期的にケアが必要なのだ。獣医さんやペットショップでもやってくれるそうだが、こんな楽しいことを他人に任せるのはもったいないので、しっかり抱っこしてパチパチ切る。最初は抵抗して激しくキックするウサギが、切るうちにあきらめて「どうにでもしろ・・」と脱力するのも面白い。

これらに共通する気持ちは言ってみれば「管理欲」である。自分にとってきれいな、あるべき状態に保ちたい、という支配欲にも似た感情である。髪や爪ならまだいいが、周囲の言動や態度にも干渉と管理が行き過ぎぬよう、この衝動はコントロールすべきものである。他人に向けず、自分に向けろ、それでも足りぬなら物言わぬ植物やペットに向けろ。それが平和的な解決策である。枯れた花ひとつない手入れの行き届いた庭、美しく毛並みの整ったペットを見かけると、ああ、ここにも強烈な管理欲を持った人がいる・・と思うのである。