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世田谷通信(175)
猫草
図書室では毎年数百冊の本を購入・寄贈で受け入れする。でも棚の数は有限で場所も増えない。ということは同じ数の本を廃棄しなければ置けないのである。新しい本の受け入れは気分が浮き立つが、資料的に古い本、人気がなく読まれなくなった本のラベルを剥がして、分解し廃棄する作業は精神的に疲れる。本を捨てるのは本好きには辛いのだ。
そんなことがあって、気分が落ち込んでいた反動からか、1冊の古書を買ってしまった。市川崑・和田夏十著「成城町271番地」白樺書房、昭和36年初版本である。市川崑と言えば有名な映画監督、成城町271番地は現在の成城2丁目辺りと見当がつく。表紙が破れ状態がよくないこともあり、値段は安い。
家に帰って見返しをみて、おや、と思った。著者献呈本である。大河ドラマにも出演している俳優さん宛て。破れた表紙に俳優名の千社札シールが貼ってある。裏表紙には最初に買い取った古書店名もある。六本木の俳優座劇場前にあったその書店は既に閉店。市川崑監督と俳優との交流を示すもので、映画好きには興味深いものだろう。回りまわって、芸能に全く詳しくない私の手元に来てしまって申し訳ない限り。
本の内容は、40代の市川崑監督が映画会社の意向と予算とスケジュールの中で苦心している様子が綴られている。世間の評判を気にかけ、自分のスタイルを模索し、映画評論家と激論し、映画とは何か散々小難しく悩んでいる様子が面白い。後半は監督の奥様であり、脚本家でもある和田夏十さんの日常が綴られている。こちらはわかりやすく率直な文章。家族のお弁当を作り、庭仕事をする合間に、台所の机で脚本を書いている様子がうかがえる。お庭に紫苑を植えたが枯れてしまったともある。現在、紫苑は環境省レッドリストにも載っている絶滅危惧種になってしまった。花屋でよくみかける紫の小さな菊は宿根アスターという名前らしい。昭和36年にはありふれた花も平成30年にはもう手に入らない。大量生産の本を大量消費している現実があり、50年以上前の古書から読み解く現在もある。
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
いのちのことば社
スーザン・ハント
「緑のまきば」
「聖霊とその働き」