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世田谷通信(190)
猫草
里山の良い季節になってきた。世田谷にも野草は咲く。キンランやギンランが斜面にほっそりした姿を見せる。ヤマユリがすっと茎を伸ばしはじめる。ホウチャクソウやナルコユリ、ジエビネの地味な花も近くでみると美しい。ウラシマソウが釣り糸のような細い花序を伸ばしているのも面白い。
この光景があるのも前年にボランティアが頑張ってササ刈りをして、明るく開けた斜面になったからだと自負している。もちろん人為だけではない。昨年は暴風雨で古木の幹折れが多発し、何本か倒木の危険があるものを区が伐採した。その林冠が大きく抜けて、ギャップが林床を明るくしている。明るくなったのは上部だけではない、林冠と同じぐらいの範囲に根があったと考えると、木の半径数mの地下にも大きな変化が起きているはずだ。幹という主を失って、根は少しずつ萎縮、分解が始まっているだろうし、まだ勢いがあれば萌芽更新するだろう。
しかしその木が元の姿に生長する前に周辺の植物が空いた場所の争奪戦をはじめていて、今後、何がどう優勢になってその空間を占めていくのか。興味深い所である。
すでにクヌギやコナラの幼樹が育っている、地面の下で自分の番が来るのをじっと待っていたのだろう。これらが育つのが先か、隣の木が枝を伸ばしてくるのが先か、静かな戦いが繰り広げられている。
オーストラリアの植物に、バンクシアというのがあって、その種は頑丈な樹皮に守られており、山火事の後にはじけて発芽するそうだ。最初はなぜ山火事をトリガーに?と思ったが、周辺が焼けて世代交代するきっかけと思えばなるほどと思う。いち早く発芽して自分が優勢になれるチャンスだし、土壌は灰で栄養が豊富になっているだろう。それにしても、どれ位の頻度で山火事が発生するのか不確定なリスクは伴う。ピンチを逆手にとった方法は面白いと思うけれど。その前に本体が寿命を迎えたら数が減るのに。
ヤマユリにしても、あんなに茎を伸ばすのはたくさんの種を遠くに飛ばしたいのだろう。それにしたって茎が細く花が重すぎではないか。自立できずに地面に倒れてしまうことがよくある。それこそ本末転倒ではないのか。やっと飛ばした種は発芽率が低いし。結局、ムカゴでクローンを増やすのは発芽までの時間稼ぎというわけか。
生きものが命をつないでいくプログラムは合理的なようでどこか危うくちょっと破綻していて、それでも戦略と創意工夫に満ちている。
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
いのちのことば社
スーザン・ハント
「緑のまきば」
「聖霊とその働き」