小閑記

　　　小閑記

　「なぜなら、彼らは神を知っていながら、神としてあがめず、感謝もせず、かえってその思いはむなしくなり、その無知な心は暗くなったからである」。

　　　　　　　　　　　　　　　（ローマ１章２１節）

 

　聖書は、それを、はなはだ具体的に書いております。先ず、その思いが虚しくなる、と言います。思いと言うのは、論じ合うことであります。自分の心に中で、ことを決まるために、ああであろうか、こうであろうなと論争でもするようにして判断することであります。

　ところが、それが虚しくなってしまうと言うのであります。それが空虚なってしまう、無に帰してしまう、内容のないものになってしまう、と言うことであります。確信をもって、判断するつもりでいたら、そういう議論は、全く意味のない、根拠のないものになっていることが分かったのであります。

　それと同時に、その無知の心は、暗くなってしまうのであります。心という言葉は、パウロは、われわれの心に働き全体の意味に用いています。われわれの感情も知性も含めたものであります。それが闇に覆われたように暗くなってしまうのであります。

　無知の心と言っていますが、無知と言うのは、まとまりがつかないことであります。事を判断するには、まとまりをつけねばなりません。それが出来ないのであります。心が暗くなって無知になるのではなく、初めから、無知の心といっているのは、興味深いことであります。彼らの心は、神を無視したため暗くなったのです。

　しかし、実は、初めから無知なので、仕方がないというような気持ちが、パウロの中にあったのかもしれません。いずれにせよ、こういうことが、神を神としなかったことの結果として出てくるのである、と言うことであります。まことに「神は侮られるようなかたではない」（ガラテヤ６：７）のであります。このようにして、利口ぶった人間は、神の裁きを受けて、愚かになってしまったのであります。

　「あなた方の先祖は、わたしになんの悪いことがあるのを見て、私から遠ざかり、むなしいものに従って、むなしくなったのか」（エレミヤ２：５９）。と言われています。

　その結果、どうなったのでしようか。神を神として崇めなかったことは、心が暗くなり虚しくなることではすまなかったのであります。神を神としないことは、人間の世界の根本的な倒錯であります。したがって、全てのことが逆転してくるのであります。その中で最も恐ろしいことは、神でないものを神として拝むということでありました。

　先ほどのエレミヤの言葉のもう少し先を読むと次のように書いてあります。

　「その神を神でない者に取り替えた国があろうか。ところが、わたしの民はその栄光を益なきものと取り替えた。天よ、この事を知って驚け、おののけ、いたく恐れよ」と主は言われる。「それは、わたしの民が二つの悪しき事を行ったからである。すなわち生ける水の源であるわたしを捨てて、自分で水ためを掘った。それは、こわれた水ためで、水を入れておくことのできないものだ」（エレミヤ２：１１～１３）。

　パウロは、まるでエレミヤの言葉にならって書いているように見えるではありませんか。自らの知恵を過信して、神を軽蔑した者は、神を神でないものと取り替えてしまったのであります。パウロの言葉で言えば、不朽の神の栄光を変えた、エレミヤの言う益なきもの、即ち、朽ちる人間や鳥や獣や這うものの像を拝むようになってしまった、と言うのであります。

（竹森満佐一著　ローマ書講解説教より）　　　　　　

　　　日本キリスト改革派教会引退教師　上河原立雄　選

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