2023年7月号
№193
号
通巻877号
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ビルマ
昭和20年
10月28日
-タキン党事件で指名される-
珍しく食事時でないのに、独房を開けてくれた。そして雑居房の広場に連れて行かれた。また首実験である。独房にいるわれわれは一般の者とは別の場所に並ばされた。首実験に来たビルマ人の中に日本軍に反乱したビルマ国軍の一味であったボミ-中尉がいた。
彼は私を指して英軍将校に「タキン党員20数名を殺した奴はこの者です。私がこの刑務所に入れられていたある夜、遠山は幾人かの部下を連れて来てタキン党員20数名を連れ出した。その後、彼等は一人も帰ってこなかったから遠山によって殺されたと思う」とビルマ語で証言した。私はこれ位のビルマ語は十分理解できたし、でたらめの証言である。しかし、この場で反論することは許されなかった。
この事件は、終戦直前に日本軍によって指導されていたビルマ国軍が突然反乱を起こし、各地でゲリラ戦を展開し、前線から敗退する日本軍を攻撃したので、軍に多くの犠牲者を出した。彼等はビルマ最後の拠点であるモールメン地区の日本軍を撹乱すべく工作をしていた。この反乱軍の一味であった県警察部長をはじめタキン党幹部20数名を逮捕し取調べたが、その事実が判明したので、分隊長は隊本部を通じて憲兵司令部に報告し、その指示を仰いだ。司令部より「厳重処分せよ」との命令があり、極秘に処刑した事件である。
東分隊長は、この事件の発覚することを心配して、もしこの件で英軍より取調べを受けるようなことがあったら「反乱国軍関係者は全員タイ国境近くで釈放した」と答えるように指示していた。
11月10日
10月28日のボミー中尉の首実験以来、イギリス人は私を「タキン党事件」の鍵を握る重要人物であるとの烙印をおした。取調べ以外は独房より一歩も出してもらえなくなった。食事も運んでくれるのである。今日は階下の房に幾人かのビルマ人が入監した。このビルマ人は日本軍がビルマに進駐して以来、憲兵隊や軍に協力してくれた者たちであった。日本軍が降伏するや、対日協力者の罪で逮捕されたのである。
この中に憲兵隊の通訳センタンもいた。彼等は着の身着のまま投獄され、寝るのに毛布も蚊帳もなく冷たいコンクリートの床の上でゴロ寝である。夜中になると、高い熱のために、うめき声にも似た声、かん高い声で口走る者等、彼等の苦悩を想像することができる。彼等にお詫びしたい気持ちでいっぱいであった。しかし、どうしてやることもできない。センタンもマラリヤに侵されている。秘かに戦友に頼んでマラリヤの薬を与えることができた。そして二枚持っていた毛布の一枚も分けてやった。
私は彼等に次のことを話した。「戦争に負けた俺たちが牢に入れられるのは仕方がない。しかし、お前たちまでこんな目にあわせて申し訳ない。もし俺たちのことで取調べを受けているのなら、俺たちをかばう必要はない。お前たちが釈放されるためになるなら、嘘でもよい、悪口でもかまわないから、ここから出ることを考えるべきである」と監視のすきを見て話した。取調官は対日協力ビルマ人についても繰り返し繰り返し訊問した。われわれのために働いてくれた彼等に不利になる事柄は避けて有利になる証言をしたことは、暗い獄生活の中にあって、私にとっては一つの慰めでもあった。
わがために 尽くせしビルマの 人々は われらと共に 獄に入りたり
マラリヤで 獄の中にて うめく声 われと共に 働きし現地人(ひと)
* このビルマ人は裁判で全員無罪であったことを後日聞いた。また、後日行われた私の裁判で、証人として私のために法廷に立ち、証言してくれたので、有利となり死刑を覚悟していた刑は有期刑の判決であった。
* 「タキン党」とは、英国の植民地であった当時、ビルマ独立を目ざして活動した秘密団体である。日本軍のビルマ進駐時は協力したが日本軍がビルマ戦線で不利になるや「ビルマから日本軍を駆逐せよ」との指令を出して反日闘争に路線を変更した。ビルマが独立するやこのタキン党により新しい政府を樹立した。
この文章の転載はご子息の許可を得ております。
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書籍紹介
エネルギー技術の
社会意思決定
日本評論社
ISBN978-4-535-55538-9
定価(本体5200+税)
=推薦の言葉=
森田 朗
東京大学公共政策大学院長、法学政治学研究科・法学部教授
「本書は、科学技術と公共政策という新しい研究分野を目指す人たちにまずお薦めしたい。豊富な事例研究は大変読み応えがあり、またそれぞれの事例が個性豊かに分析されている点も興味深い。一方で、学術的な分析枠組みもしっかりしており、著者たちの熱意がよみとれる。エネルギー技術という公共性の高い技術をめぐる社会意思決定は、本書の言うように、公共政策にとっても大きなチャレンジである。現実に、公共政策の意思決定に携わる政府や地方自治体のかたがたにも是非一読をお薦めしたい。」
共著者・編者
鈴木達治郎
(財)電力中央研究所社会経済研究所研究参事。東京大学公共政策大学院客員教授
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授
松本三和夫
東京大学大学院人文社会系研究科教授
青木一益
富山大学経済学部経営法学科准教授
上野貴弘
(財)電力中央研究所社会経済研究所研究員
木村 宰
(財)電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
寿楽浩太
東京大学大学院学際情報学府博士課程
白取耕一郎
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程
西出拓生
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
馬場健司
(財)電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
本藤祐樹
横浜国立大学大学院環境情報研究院准教授
おすすめ本
スーザン・ハント
ペギー・ハチソン 共著
発行所 つのぶえ社
発 売 つのぶえ社
いのちのことば社
いのちのことば社
SBN4-264-01910-9 COO16
定価(本体1300円+税)
本書は、クリスチャンの女性が、教会において担うべき任務のために、自分たちの能力をどう自己理解し、焦点を合わせるべきかということについて記したものです。また、本書は、男性の指導的地位を正当化することや教会内の権威に関係する職務に女性を任職する問題について述べたものではありません。むしろわたしたちは、男性の指導的地位が受け入れられている教会のなかで、女性はどのような機能を果たすかという問題を創造的に検討したいと願っています。また、リーダーは後継者―つまりグループのゴールを分かち合える人々―を生み出すことが出来るかどうかによって、その成否が決まります。そういう意味で、リーダーとは助け手です。
スーザン・ハント
スーザン・ハント
おすすめ本
「つのぶえ社出版の本の紹介」
「緑のまきば」
吉岡 繁著
(元神戸改革派神学校校長)
「あとがき」より
…。学徒出陣、友人の死、…。それが私のその後の人生の出発点であり、常に立ち帰るべき原点ということでしょう。…。生涯求道者と自称しています。ここで取り上げた問題の多くは、家での対話から生まれたものです。家では勿論日常茶飯事からいろいろのレベルの会話がありますが夫婦が最も熱くなって論じ合う会話の一端がここに反映されています。
「聖霊とその働き」
エドウイン・H・パーマー著
鈴木英昭訳
「著者のことば」より
…。近年になって、御霊の働きについて短時間で学ぶ傾向が一層強まっている。しかしその学びもおもに、クリスチャン生活における御霊の働きを分析するということに向けられている。つまり、再生と聖化に向けられていて、他の面における御霊の広範囲な働きが無視されている。本書はクリスチャン生活以外の面の聖霊について新しい聖書研究が必要なこと、こうした理由から書かれている。
定価 1500円
鈴木英昭著
「著者のことば」
…。神の言葉としての聖書の真理は、永遠に変わりませんが、変わり続ける複雑な時代の問題に対して聖書を適用するためには、聖書そのものの理解とともに、生活にかかわる問題として捉えてはじめて、それが可能になります。それを一冊にまとめてみました。
定価 1800円
おすすめ本
C.ジョン・ミラー著
鈴木英昭訳
キリスト者なら、誰もが伝道の大切さを知っている。しかし、実際は、その困難さに打ち負かされてしまっている。著者は改めて伝道の喜びを取り戻すために、私たちの内的欠陥を取り除き、具体的な対応策を信仰の成長と共に考えさせてくれます。個人で、グループのテキストにしてみませんか。
定価 1000円
おすすめ本
ポーリン・マカルピン著
著者の言葉
讃美歌はクリスチャンにとって、1つの大きな宝物といえます。教会で神様を礼拝する時にも、家庭礼拝の時にも、友との親しい交わりの時にも、そして、悲しい時、うれしい時などに讃美歌が歌える特権は、本当に素晴しいことでございます。しかし、讃美歌の本当のメッセージを知るためには、主イエス・キリストと父なる神様への信仰、み霊なる神様への信頼が必要であります。また、作曲者の願い、讃美歌の歌詞の背景にあるもの、その土台である神様のみ言葉の聖書に触れ、教えられることも大切であります。ここには皆様が広く愛唱されている50曲を選びました。
定価 3000円