2023年7月号
№193
号
通巻877号
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ビルマ
戦犯者の獄中記 (8) 遠山良作 著
昭和21年
5月20日
-原告のでたらめな証言続く-
証言台に立って陳述する。検事側の証人は連日にわたって、申し合わせたように私たちを指差しては、取調べの時、酷い拷問を受けたことを強調し、中には涙を流して、当時、拷問を受けた苦しさを訴えた者もいた。私は九名の証人より酷い拷問を受けた旨を指摘された。取調べをしたこともないのに、彼等は私より拷問を受けたという。全く身に覚えのないことである。それには理由があった。
彼等が逮捕される二ヵ月位前より「エデゴン」村に派遣され、部落民と部落に駐留中の印度国民軍の動静を捜索すべく東分隊長より命じられ、この任に当たっていた。そして間もなく二十数名のものが憲兵隊によって逮捕されたのである。彼等は私が逮捕したと思っている。至し方のないことである。私同様取調べをしたこともない者七名は、多かれ少なかれ拷問をした、と証人たちは証言した。一人の証人は出田大佐と東分隊長を指差して、「二人は直接手をくださなかったが、(中島軍曹を指差して)あの者に命じて、電気拷問、水責め拷問を行なった、と証言した」。司令部の高級部員が来て、直接取調べの指揮をするようなことはあり得ないことである。また、補助憲兵である中島軍曹が取調べをするようなこともない。憲兵隊の内部を知る者ならこんな証言が嘘であることははっきりしている。
憲兵側証人九人の証言は終わった。被告席にいる私たち八名のかなで一番少なく検事証人より指名された者は出田大佐、塩田軍曹、小川兵長(補助憲兵で東分隊長の運転手)であったが、三名の者より拷問したと指摘された。
5月22日
-私たちの証言-
でたらめな証人の証言が終わると私たちの証言が始まった。
弁護士の尋問は出田大佐より始められた。司令部の高級部員であり、高級部員が分隊に行って取調べを行うようなことはあり得ないこと、そしてモールメン憲兵分隊に一度も行ったことはないことを陳述した。東分隊長は「この事件については私は井出籠准将と、福田曹長の二人に命じて取調べを担当せしめた。しかし拷問をするようなことは命じなかった。遠山、小林、塩田は当時モールメン市にはいなかったので事件とは関係がない」と証言した。
中山少尉は「水責めによる拷問を二回行った」と正直にこれを認め、その状況を説明した。中島軍曹は補助憲兵であるから取調べをしたことはなく、留置場の監視が任務であること、そして取調べを行なったものは、井出籠准将と福田曹長であったことを述べた。私は当時彼等が連合軍のゲリラ部隊と密かに連絡をし、通敵行為のあった事実を、東分隊長に報告した。この報告に基づいて通敵容疑者を逮捕することに協力したが取調べ及び拷問をしたことのない事実を証言した。
私たちは当時取調べを行ない、拷問を行なった者などを正直に陳述し、検察側の証人がでたらめな証言であることが実証されたと思ったが、裁判官の裁定に不安があるとして、日本側の弁護団よりこの事件を一層明確にする必要があると、井出籠准将、福田曹長には気の毒であるが、実際取調べをした担当二人を証人として申請した。二人は関係のない友が、もし有罪になるようなことがあっては申し訳ないと言って、追加起訴されることを覚悟して証言台に立つことを承諾してくれた。
福田曹長は弁護人側の証人として「私は東大尉の命によりエデゴン村より逮捕した、通敵容疑者の取調べを井出籠准将と二人で行なった。取調べに当たって、真実をなかなか自白しないので、水責めや、電気による拷問をした。私は決して東分隊長から拷問せよと命じられたのではなかった。全ての責任は私たち二人にある」と堂々と証言した。
井出籠准将は病気入院中のため出廷出来ないので、戦犯委員会の聞き取り証書が提出された。文章の内容は「福田曹長と共に取調べを行なった。そして拷問をなしたが他の者は関係していない」旨の内容である。取調べに当たった二人が自分の不利を顧みることなく、事件の真相を恐れることなく証言してくれたことは喜ばしく涙が出た。
原告、被告の証言が終了し、検事の論告、そして弁護士の弁論も終わった。検事は全員に有刑の求刑をした。
15日間にわたる裁判は終了し、弁護団は「福田曹長たちの証言で有利になったけれども、責任者である東大尉と中山少尉は有罪であると思う。特にモールメン分隊と関係のない出田大佐は無罪であることはまず間違いないと思う」と言った。
この文章の転載はご子息の許可を得ております。
戦犯者の獄中記 (8) 遠山良作 著
昭和21年
5月20日
-原告のでたらめな証言続く-
証言台に立って陳述する。検事側の証人は連日にわたって、申し合わせたように私たちを指差しては、取調べの時、酷い拷問を受けたことを強調し、中には涙を流して、当時、拷問を受けた苦しさを訴えた者もいた。私は九名の証人より酷い拷問を受けた旨を指摘された。取調べをしたこともないのに、彼等は私より拷問を受けたという。全く身に覚えのないことである。それには理由があった。
彼等が逮捕される二ヵ月位前より「エデゴン」村に派遣され、部落民と部落に駐留中の印度国民軍の動静を捜索すべく東分隊長より命じられ、この任に当たっていた。そして間もなく二十数名のものが憲兵隊によって逮捕されたのである。彼等は私が逮捕したと思っている。至し方のないことである。私同様取調べをしたこともない者七名は、多かれ少なかれ拷問をした、と証人たちは証言した。一人の証人は出田大佐と東分隊長を指差して、「二人は直接手をくださなかったが、(中島軍曹を指差して)あの者に命じて、電気拷問、水責め拷問を行なった、と証言した」。司令部の高級部員が来て、直接取調べの指揮をするようなことはあり得ないことである。また、補助憲兵である中島軍曹が取調べをするようなこともない。憲兵隊の内部を知る者ならこんな証言が嘘であることははっきりしている。
憲兵側証人九人の証言は終わった。被告席にいる私たち八名のかなで一番少なく検事証人より指名された者は出田大佐、塩田軍曹、小川兵長(補助憲兵で東分隊長の運転手)であったが、三名の者より拷問したと指摘された。
5月22日
-私たちの証言-
でたらめな証人の証言が終わると私たちの証言が始まった。
弁護士の尋問は出田大佐より始められた。司令部の高級部員であり、高級部員が分隊に行って取調べを行うようなことはあり得ないこと、そしてモールメン憲兵分隊に一度も行ったことはないことを陳述した。東分隊長は「この事件については私は井出籠准将と、福田曹長の二人に命じて取調べを担当せしめた。しかし拷問をするようなことは命じなかった。遠山、小林、塩田は当時モールメン市にはいなかったので事件とは関係がない」と証言した。
中山少尉は「水責めによる拷問を二回行った」と正直にこれを認め、その状況を説明した。中島軍曹は補助憲兵であるから取調べをしたことはなく、留置場の監視が任務であること、そして取調べを行なったものは、井出籠准将と福田曹長であったことを述べた。私は当時彼等が連合軍のゲリラ部隊と密かに連絡をし、通敵行為のあった事実を、東分隊長に報告した。この報告に基づいて通敵容疑者を逮捕することに協力したが取調べ及び拷問をしたことのない事実を証言した。
私たちは当時取調べを行ない、拷問を行なった者などを正直に陳述し、検察側の証人がでたらめな証言であることが実証されたと思ったが、裁判官の裁定に不安があるとして、日本側の弁護団よりこの事件を一層明確にする必要があると、井出籠准将、福田曹長には気の毒であるが、実際取調べをした担当二人を証人として申請した。二人は関係のない友が、もし有罪になるようなことがあっては申し訳ないと言って、追加起訴されることを覚悟して証言台に立つことを承諾してくれた。
福田曹長は弁護人側の証人として「私は東大尉の命によりエデゴン村より逮捕した、通敵容疑者の取調べを井出籠准将と二人で行なった。取調べに当たって、真実をなかなか自白しないので、水責めや、電気による拷問をした。私は決して東分隊長から拷問せよと命じられたのではなかった。全ての責任は私たち二人にある」と堂々と証言した。
井出籠准将は病気入院中のため出廷出来ないので、戦犯委員会の聞き取り証書が提出された。文章の内容は「福田曹長と共に取調べを行なった。そして拷問をなしたが他の者は関係していない」旨の内容である。取調べに当たった二人が自分の不利を顧みることなく、事件の真相を恐れることなく証言してくれたことは喜ばしく涙が出た。
原告、被告の証言が終了し、検事の論告、そして弁護士の弁論も終わった。検事は全員に有刑の求刑をした。
15日間にわたる裁判は終了し、弁護団は「福田曹長たちの証言で有利になったけれども、責任者である東大尉と中山少尉は有罪であると思う。特にモールメン分隊と関係のない出田大佐は無罪であることはまず間違いないと思う」と言った。
この文章の転載はご子息の許可を得ております。
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緑を大切に!
書籍紹介
エネルギー技術の
社会意思決定
日本評論社
ISBN978-4-535-55538-9
定価(本体5200+税)
=推薦の言葉=
森田 朗
東京大学公共政策大学院長、法学政治学研究科・法学部教授
「本書は、科学技術と公共政策という新しい研究分野を目指す人たちにまずお薦めしたい。豊富な事例研究は大変読み応えがあり、またそれぞれの事例が個性豊かに分析されている点も興味深い。一方で、学術的な分析枠組みもしっかりしており、著者たちの熱意がよみとれる。エネルギー技術という公共性の高い技術をめぐる社会意思決定は、本書の言うように、公共政策にとっても大きなチャレンジである。現実に、公共政策の意思決定に携わる政府や地方自治体のかたがたにも是非一読をお薦めしたい。」
共著者・編者
鈴木達治郎
(財)電力中央研究所社会経済研究所研究参事。東京大学公共政策大学院客員教授
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授
松本三和夫
東京大学大学院人文社会系研究科教授
青木一益
富山大学経済学部経営法学科准教授
上野貴弘
(財)電力中央研究所社会経済研究所研究員
木村 宰
(財)電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
寿楽浩太
東京大学大学院学際情報学府博士課程
白取耕一郎
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程
西出拓生
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
馬場健司
(財)電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
本藤祐樹
横浜国立大学大学院環境情報研究院准教授
おすすめ本
スーザン・ハント
ペギー・ハチソン 共著
発行所 つのぶえ社
発 売 つのぶえ社
いのちのことば社
いのちのことば社
SBN4-264-01910-9 COO16
定価(本体1300円+税)
本書は、クリスチャンの女性が、教会において担うべき任務のために、自分たちの能力をどう自己理解し、焦点を合わせるべきかということについて記したものです。また、本書は、男性の指導的地位を正当化することや教会内の権威に関係する職務に女性を任職する問題について述べたものではありません。むしろわたしたちは、男性の指導的地位が受け入れられている教会のなかで、女性はどのような機能を果たすかという問題を創造的に検討したいと願っています。また、リーダーは後継者―つまりグループのゴールを分かち合える人々―を生み出すことが出来るかどうかによって、その成否が決まります。そういう意味で、リーダーとは助け手です。
スーザン・ハント
スーザン・ハント
おすすめ本
「つのぶえ社出版の本の紹介」
「緑のまきば」
吉岡 繁著
(元神戸改革派神学校校長)
「あとがき」より
…。学徒出陣、友人の死、…。それが私のその後の人生の出発点であり、常に立ち帰るべき原点ということでしょう。…。生涯求道者と自称しています。ここで取り上げた問題の多くは、家での対話から生まれたものです。家では勿論日常茶飯事からいろいろのレベルの会話がありますが夫婦が最も熱くなって論じ合う会話の一端がここに反映されています。
「聖霊とその働き」
エドウイン・H・パーマー著
鈴木英昭訳
「著者のことば」より
…。近年になって、御霊の働きについて短時間で学ぶ傾向が一層強まっている。しかしその学びもおもに、クリスチャン生活における御霊の働きを分析するということに向けられている。つまり、再生と聖化に向けられていて、他の面における御霊の広範囲な働きが無視されている。本書はクリスチャン生活以外の面の聖霊について新しい聖書研究が必要なこと、こうした理由から書かれている。
定価 1500円
鈴木英昭著
「著者のことば」
…。神の言葉としての聖書の真理は、永遠に変わりませんが、変わり続ける複雑な時代の問題に対して聖書を適用するためには、聖書そのものの理解とともに、生活にかかわる問題として捉えてはじめて、それが可能になります。それを一冊にまとめてみました。
定価 1800円
おすすめ本
C.ジョン・ミラー著
鈴木英昭訳
キリスト者なら、誰もが伝道の大切さを知っている。しかし、実際は、その困難さに打ち負かされてしまっている。著者は改めて伝道の喜びを取り戻すために、私たちの内的欠陥を取り除き、具体的な対応策を信仰の成長と共に考えさせてくれます。個人で、グループのテキストにしてみませんか。
定価 1000円
おすすめ本
ポーリン・マカルピン著
著者の言葉
讃美歌はクリスチャンにとって、1つの大きな宝物といえます。教会で神様を礼拝する時にも、家庭礼拝の時にも、友との親しい交わりの時にも、そして、悲しい時、うれしい時などに讃美歌が歌える特権は、本当に素晴しいことでございます。しかし、讃美歌の本当のメッセージを知るためには、主イエス・キリストと父なる神様への信仰、み霊なる神様への信頼が必要であります。また、作曲者の願い、讃美歌の歌詞の背景にあるもの、その土台である神様のみ言葉の聖書に触れ、教えられることも大切であります。ここには皆様が広く愛唱されている50曲を選びました。
定価 3000円