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2023年7月号  №193 号 通巻877号
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 ビルマ
  戦犯者の獄中記  (20)  遠山良作 著

8月27日
-チャイトー事件の判決-

CCF20120920_00001.jpgチャイトー事件の裁判で判決を受けた松岡大尉たち7名もこの独房に収監された。
判決の結果は
陸軍憲兵大尉  松岡 憲郎   絞首刑
陸軍憲兵曹長  加藤 広明   絞首刑
陸軍憲兵曹長  鈴木喜代司   絞首刑
陸軍憲兵軍曹  小川 角次   12年
陸軍憲兵伍長  斉藤 健治    4年
陸軍憲兵曹長  川崎金次郎    3年
陸軍憲兵曹長  鈴木 勝夫   無罪
陸軍伍長       福田 安夫   無罪
(補助憲兵)
であった。
 
 この事件は、終戦直前の事件である。チャイトー憲兵分隊は、ビルマ反乱国軍(終戦直前にビルマ国軍は日本軍に反乱した)の関係者を逮捕・取り調べた結果、罪状が明らかになったので首謀者7名を日本刀で斬殺した事件である。
 戦場に於いて前線から撤退して来る日本軍を襲撃する、ゲリラ部隊である。しかるに、当時、戦況はわれわれに不利であった。繰り返し繰り返し空襲する敵機により、全ての輸送路は不通であった。犯人を後方に移送することは不可能に近い状況にあった。また、犯人を後方に送ることが出来たとしても、日本軍の軍法会議は、当時すでにタイ国に撤退していたので審理出来ない状態であった。分隊長である松岡大尉は犯人の処置について上司に申請伺いしたところ、「現地に於いて処分せよ」という指示であった。処分とは「殺せ」との意味である。7名を日本刀で斬ったのである。検事側は分隊にいたビルマ人を証人に立て、殺した人物を裁判所に於いて指名させた。証人は「加藤曹長、鈴木(喜)曹長が刀で斬ったことを見ていた」と証言したのである。
 今まで行われた裁判の例を見ても、たとえその証言が間違っていても証拠として採用されている。弁護士団は罪もない二人を助けるためには、実際に実行した者、即ち、起訴裁判中の小川軍曹と斉藤伍長には気の毒であるが、その事実を証言させる以外に検事側の証言を覆すことは不可能である、との判断から事実を法廷で証言させることにした。
 証言台に立った小川軍曹は「分隊長に命により私が、斉藤伍長と山田上等兵(二人は起訴されていない)を指揮して、犯人を日本刀で斬った。」と証言した。斉藤伍長も山田、山本両上等兵もそれぞれの事実を証言すると共に、加藤曹長、鈴木曹長はその場にいなかった、と証言した。
 法廷は日本人の証言を一言半句も採用しなかった。僅か一名のビルマ人の間違った証言でも証拠として判決するのである。全く無茶な裁判である 。
 死刑の判決を受けた松岡大尉は、「何のために一ヶ月も審理したのか理解出来ない。彼等は誰が死刑になるのかは問題ではない。お前たちのように裁判もせずに殺さないようにと、裁判という形式が問題であり、初めから作られたサル芝居に過ぎない。自分がこの裁判に臨んで如何に英国が老獪であるかを知った。起訴されて裁判が始まる時、既にこの事件は誰が死刑で、誰が有期で、誰が無罪であるかを順序正しく割り当てているに過ぎない。証人は事前に教育し指導して証言させている。こんな細工までして審理するのは日本人の真似の出来ない芸当である。」と言われた。
 検事側の指導する証人が指をさす方にいた者が死の運命を辿るのである。裁判を受けた者のみが知る不当な戦犯裁判である。

この文章の転載はご子息の許可を得ております。

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