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2023年7月号  №193 号 通巻877号
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b71c6cc0.jpeg 解説 ウエストミンスター信仰告白 (8)
               
                    岡田  稔著

第四章 創造について(1)

1 父・子・聖霊なる神は(1)、ご自身の永遠のみ力、知恵、および善の栄光の現われるために(2)、初めに、世界とその中にあるすべてのものを、見えるものであれ見えないものであれ、六日の間に、すべてはなはだ良く創造すること、すなわち無から作ることをよしとされた(3)。

  1 ヘブル1:2、ヨハネ1:2,3、創世1:2、ヨブ26:13、ヨブ33:4
  2 ロマ1:20、エレミヤ10:12、詩104:24、詩33:5,6
  3 創世1章、行伝17:24、ヘブル11:3、コロサイ1:16

一 神の聖定は創造と摂理の業によって、歴史の内に実現する。言い換えれば、神の歴史的行為を二分すると、創造と摂理とに分けることができる。創造は実に、有神論の根幹をなす大教理であって、大いに論ずべき問題である。
この信仰告白はごく簡単に取り扱っているが、少し詳細に解説したいと思う。ヨーロッパの思想史に理神論、汎神論などが登場したのは、主として17世紀以後であったので、本信仰告白が作成された当時は、決定論や偶然論が摂理論をおびやかしていたほどには、創造論に対する議論が沸騰してはいなかったのであろう。
本項で言及されている教理はおおよそ次の6つである。

1 創造という言葉の主語が三位一体の神であって、単なる父なる神のみの、み業ではないこと。
2 創造の目的が神ご自身の栄光をあらわすことにあったこと。
3 創造の時は、原始であり、6日の間のみ業であること。
4 神以外の一切のものが被造物であること。
5 完全創造の教理。
6 創造は無よりの創造であること。

①  まず創造を父のみのみ業とすることの誤りが指摘されている。ウエストミンスター小教理問答では「その御力の言葉によって」(問9の答)創造されたとあるように、第二人格であるロゴスは創造者であり、聖霊も被造物ではなく、最初より創造の業に深く関係していたことが、創世記1章で明白である。  
 だから、使徒信条で「我は天地の造り主」と言われているのは、単に三位一体の第一
人格を指すものではない。コロサイ人への手紙1章にある通り、キリストは明らかに創
造主である。このキリストの宇宙論的意義の教えは、キリストの完全神性論を構成する
一大要素である。
② 創造の究極の目的が、神ご自身のご栄光にある、と言うことは、一切の人本主義
や自然主義を根底から覆すことが出来る唯一の原理である。神の一切の行為は究極的には自己目的的である。神が何か神以外のものを目的として行為すると言うならば、神の自己充足と言う原理は破綻する。自己充足者でない神は、真の有神論的な神ではない。
③ 創造の時に関しては、古くより二つの誤謬が広く行きわたっていた。一つは、永
遠創造説であり、他方は永続的創造説である。前者はオリゲネスなどの主張したものであって時間を摂理と不可離的に結合しているものと考えるところから、摂理と区別された創造は時間の中にないと判断するために、永遠における事柄と推論され、結局、創造と永遠の聖定が同一視され、混同されたのである。
 ところが時間の対立語を、永遠と考えず瞬間と見るところから、瞬間創造説というものも現れてきた。そして永遠創造説と瞬間創造説とは、ともに時間に対する無時間または非時間という考え方をした。アウグスチヌスがこれらに対して「創造は時間の中においてなされたのではなく、時間と共に創造された」と説明したのは有名である。バルト神学でも創造の時を堕落の時と区別しようとして、創造即永遠と理解しているような印象を与える。
 本信仰告白は、創造の時を「初めに」と主張するが、これは歴史の初め、時間の初めであって、永遠界の出来事ではないと言うことである。創造が時間に対する瞬間ではなく、一定の期限を持つことを示すために「六日の間」を主張している。もちろんこの六日間は、わたしたちの24時間と同一の時限と考えなければならないかどうかについては、創世記1章の註解上、定説と見るべきものは出来てはいなない。
 太陽の回転速度が創造時と現在とで不変であるか、太陽の出現以前と以後とで一日が同じ長さであったか、考えて行くと断定困難な課題となっている。ただ、それが永遠界の出来事でもなく、やはり一定の過程を持って順序ある業としてなされたと見なくてはならない。
④ 神の霊は不可見物と同一ではい。サタンも一個の霊的存在者である。分けても精
神を神と同一視してはならない。公同信条が表明したように、神は神以外の一切の見えるものと見えないものをお造りになったのである。人間は肉体のみでなく、魂もまた、被造物である。それは、あらゆる迷信を排斥する偉大な原理である。
⑤ 完全創造と言うことは、二つの点で大切な真理である。第一は、創造的進化論や
有限の神などと言う思想を排斥するために大切であって、神の創造のみ業は初めの六日間をもって完成したのであり、以後の神の業はすべて摂理のみ業である。
カルヴァンもそう考えていたと思うが、六日間の創造を、さらに二つに区分して、第一を絶対的創造、すなわち無よりの創造と、第二を相対的創造、すなわち六日間の形成とに分けるならば、後者は既に、ある意味で摂理的性質をおびている。無より存在させられるのは、創造の厳密な意味であり、既に存在している物が保持または変化させられるのは、摂理であると言える。
しかし、六日間で存在したものを、ある形に形成するみ業は、摂理的要素を含みつつも、やはり根本的には、そのものの固有な形態にまで作り上げるのであるから、創造のみ業であると言える。この意味で、六日間に一切の事物はその固有性にまで存在させられたのであって、無より一切のもの、質料としての無差別的な被造物が存在させられた事実のみに、創造という用語を限定するは当たらない。
第二に、今日私たちが見ている世界の悪、不合理、腐敗した性質と言う一切の矛盾的事実は、その起原をこの六日間のみ業の中に持つのではなく、それ以後、天使や人間の堕落に起因することを明白にするために、この完全創造の教理は大切なのである。
⑥  最後に、最も重要な問題である「無より」という点を考えてみたい。創造するとは、すなわち、無より造ることだと書かれている。厳密には、まず万物の質料となるべき一切のものが、無より創造され、その後、この創造されたものを材料として一切の事物がそれぞれの固有性に形造られたと見るべきであるから、六日間の業が、そのまますべて無より創造されたと言われる訳ではない。
 この「無からの創造」という教理は、私たちに、次の点を明らかにする。
1 神以外に永遠より自存したものは一つもない。 2 無とは、あるものの意味ではない。すなわり、無よりというものがあったのではない。 3 万物が創造される場合、神以外に何かこの創造の媒介手段、第二原因などと言うような役割を果たす何物かが万物に先たって存在したり、作られてあったのではない。 4 しかし、神の創造は突如として神の中に湧き立った偶発的意志や知恵の行為ではなく、永遠の聖定に基づく創造であった。
 無は資材的に何ものもなかったと言う意味での無であり、聖定は叡知的根源と言う意味での創造の先行者である。神の内なる永遠は、世界の時間的先行者、または論理的先行者と言うようなものではない。創造論の核心は要するに、永遠と時間とに問題である。時間に対して無時間的世界というようなものを考える時、それはスピノザ的な論理に他ならない。永遠の相とは、単なる幾何学的必然界に過ぎない。時間に対して永遠性を持たない瞬間を永遠界と考える時、キルケゴール的非論理の世界を空想することになる。
 これらは共に、非時間として時間の対立者ではあるが、決して時間としての真の永遠界を指示しないであろう。
この文章は月刊「つのぶえ」紙に1951年(昭和26)10月号から1954年(昭和29)12月号まで書き綴ったものを単行本にしたものである。「つのぶえジャーナル」掲載には、つのぶえ社から許可を得ています。「ウエストミンスター信仰告白」は日本基督改革派教会出版委員会編を使用。
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