2023年7月号
№193
号
通巻877号
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ビルマ
戦犯者の獄中記 (27) 遠山良作 著
昭和21年
11月22日
―西独房と絞首台―
シャンユワ事件で判決を受けたムドン派遣所の5人がこの独房に来たので、私は林大尉、小川軍曹、斉藤伍長と共に西独房に移された。生死を共に誓った友人田室曹長と、一言の言葉さえ交わすことなく分かれることは後ろ髪を引かれる思いで東独房を出た。
この西独房は、房の中央が通路になっている。独房の広さは東独房より広い。通路の突き当たりに扉があり、外部に出られるようになっている。ここから外部に出たところに絞首台がある。死刑執行の前日にはこの独房に移されて一夜を過ごすのである。
ここでも一日に一回裏庭に出て運動させてくれる。広場の西の端に高床の木造で作られた古びた小さな建物がある。これが絞首台である。監視兵の隙を見て絞首台の階段を昇ってみた。死刑を執行されるためにこの階段を登って行った先輩や、戦友たちは、何を考え、どんな心境でここを登ったかを思うと、胸の高鳴りを覚える。
床の上には直径3センチ位の太いロープが三ヶ所から垂れている。ロープの真下にある床板(踏み台)を操作することにより二つに割れ、上にいる人間が下に落ちる仕掛けになっている。下を覗くと暗くてよく見えないが床から3メートル以上ある。この絞首台は既に5名の命を奪ったのである。
私は思わずつぶやいた。
「絞首台よ、お前はこれから幾人の命を奪うのか。俺も次の裁判で死刑の宣告を受けたならお前のお世話にならなければならないなあ」と心にささやきつつこの絞首台を降りた。監視兵は私の姿が見えないので捜しにやってきた。
11月25日
―宮崎中将入監する―
「ミイクテーラ」地区に於いて、英軍監視の下で労作業に従事していた「兵(つわもい)兵団(54師団)長の宮崎繁三郎中将(岐阜県出身)が戦犯容疑者として入監された。外部よりこの刑務所に入ってきた者に対する身体検査は厳重である。危険だと思われる品物は一切取り上げる。昨日閣下が入所された折に身体検査をした英兵が再び房に来た。検査した時、目を付けた閣下の所持品である時計、万年筆、白シャツ等を、強要し、奪おうとして取り上げ、その代償としてタバコ2箱を置いていった。
初めてこの刑務所に入る者にとって、何を所持していいのか、悪いのかよく分からないので、英兵が要求すれば致し方なくその要求に応じるのが常である。何時日本に帰れるか分からない今の閣下にとっては、大切な品物ばかりである。それから少し間を置いて、また英兵がやって来た。そして閣下の所持品を要求したのであるが、先の英兵に持っていかれたので何も奪うものがないと知るや、着ている軍服を脱げというのである。さすがこの要求はお断りになった。
この房でひと晩過ごされた閣下の顔や手など外に出ている部分は無数の蚊に刺された跡で痛ましく赤く腫れ上がっている。われわれのように毎日蚊に刺されていると免疫になっているので赤くなるようなことはない。慣れることは有り難いことである。
この文章の転載はご子息の許可を得ております。
戦犯者の獄中記 (27) 遠山良作 著
昭和21年
11月22日
―西独房と絞首台―
シャンユワ事件で判決を受けたムドン派遣所の5人がこの独房に来たので、私は林大尉、小川軍曹、斉藤伍長と共に西独房に移された。生死を共に誓った友人田室曹長と、一言の言葉さえ交わすことなく分かれることは後ろ髪を引かれる思いで東独房を出た。
この西独房は、房の中央が通路になっている。独房の広さは東独房より広い。通路の突き当たりに扉があり、外部に出られるようになっている。ここから外部に出たところに絞首台がある。死刑執行の前日にはこの独房に移されて一夜を過ごすのである。
ここでも一日に一回裏庭に出て運動させてくれる。広場の西の端に高床の木造で作られた古びた小さな建物がある。これが絞首台である。監視兵の隙を見て絞首台の階段を昇ってみた。死刑を執行されるためにこの階段を登って行った先輩や、戦友たちは、何を考え、どんな心境でここを登ったかを思うと、胸の高鳴りを覚える。
床の上には直径3センチ位の太いロープが三ヶ所から垂れている。ロープの真下にある床板(踏み台)を操作することにより二つに割れ、上にいる人間が下に落ちる仕掛けになっている。下を覗くと暗くてよく見えないが床から3メートル以上ある。この絞首台は既に5名の命を奪ったのである。
私は思わずつぶやいた。
「絞首台よ、お前はこれから幾人の命を奪うのか。俺も次の裁判で死刑の宣告を受けたならお前のお世話にならなければならないなあ」と心にささやきつつこの絞首台を降りた。監視兵は私の姿が見えないので捜しにやってきた。
11月25日
―宮崎中将入監する―
「ミイクテーラ」地区に於いて、英軍監視の下で労作業に従事していた「兵(つわもい)兵団(54師団)長の宮崎繁三郎中将(岐阜県出身)が戦犯容疑者として入監された。外部よりこの刑務所に入ってきた者に対する身体検査は厳重である。危険だと思われる品物は一切取り上げる。昨日閣下が入所された折に身体検査をした英兵が再び房に来た。検査した時、目を付けた閣下の所持品である時計、万年筆、白シャツ等を、強要し、奪おうとして取り上げ、その代償としてタバコ2箱を置いていった。
初めてこの刑務所に入る者にとって、何を所持していいのか、悪いのかよく分からないので、英兵が要求すれば致し方なくその要求に応じるのが常である。何時日本に帰れるか分からない今の閣下にとっては、大切な品物ばかりである。それから少し間を置いて、また英兵がやって来た。そして閣下の所持品を要求したのであるが、先の英兵に持っていかれたので何も奪うものがないと知るや、着ている軍服を脱げというのである。さすがこの要求はお断りになった。
この房でひと晩過ごされた閣下の顔や手など外に出ている部分は無数の蚊に刺された跡で痛ましく赤く腫れ上がっている。われわれのように毎日蚊に刺されていると免疫になっているので赤くなるようなことはない。慣れることは有り難いことである。
この文章の転載はご子息の許可を得ております。
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緑を大切に!
書籍紹介
エネルギー技術の
社会意思決定
日本評論社
ISBN978-4-535-55538-9
定価(本体5200+税)
=推薦の言葉=
森田 朗
東京大学公共政策大学院長、法学政治学研究科・法学部教授
「本書は、科学技術と公共政策という新しい研究分野を目指す人たちにまずお薦めしたい。豊富な事例研究は大変読み応えがあり、またそれぞれの事例が個性豊かに分析されている点も興味深い。一方で、学術的な分析枠組みもしっかりしており、著者たちの熱意がよみとれる。エネルギー技術という公共性の高い技術をめぐる社会意思決定は、本書の言うように、公共政策にとっても大きなチャレンジである。現実に、公共政策の意思決定に携わる政府や地方自治体のかたがたにも是非一読をお薦めしたい。」
共著者・編者
鈴木達治郎
(財)電力中央研究所社会経済研究所研究参事。東京大学公共政策大学院客員教授
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授
松本三和夫
東京大学大学院人文社会系研究科教授
青木一益
富山大学経済学部経営法学科准教授
上野貴弘
(財)電力中央研究所社会経済研究所研究員
木村 宰
(財)電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
寿楽浩太
東京大学大学院学際情報学府博士課程
白取耕一郎
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程
西出拓生
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
馬場健司
(財)電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
本藤祐樹
横浜国立大学大学院環境情報研究院准教授
おすすめ本
スーザン・ハント
ペギー・ハチソン 共著
発行所 つのぶえ社
発 売 つのぶえ社
いのちのことば社
いのちのことば社
SBN4-264-01910-9 COO16
定価(本体1300円+税)
本書は、クリスチャンの女性が、教会において担うべき任務のために、自分たちの能力をどう自己理解し、焦点を合わせるべきかということについて記したものです。また、本書は、男性の指導的地位を正当化することや教会内の権威に関係する職務に女性を任職する問題について述べたものではありません。むしろわたしたちは、男性の指導的地位が受け入れられている教会のなかで、女性はどのような機能を果たすかという問題を創造的に検討したいと願っています。また、リーダーは後継者―つまりグループのゴールを分かち合える人々―を生み出すことが出来るかどうかによって、その成否が決まります。そういう意味で、リーダーとは助け手です。
スーザン・ハント
スーザン・ハント
おすすめ本
「つのぶえ社出版の本の紹介」
「緑のまきば」
吉岡 繁著
(元神戸改革派神学校校長)
「あとがき」より
…。学徒出陣、友人の死、…。それが私のその後の人生の出発点であり、常に立ち帰るべき原点ということでしょう。…。生涯求道者と自称しています。ここで取り上げた問題の多くは、家での対話から生まれたものです。家では勿論日常茶飯事からいろいろのレベルの会話がありますが夫婦が最も熱くなって論じ合う会話の一端がここに反映されています。
「聖霊とその働き」
エドウイン・H・パーマー著
鈴木英昭訳
「著者のことば」より
…。近年になって、御霊の働きについて短時間で学ぶ傾向が一層強まっている。しかしその学びもおもに、クリスチャン生活における御霊の働きを分析するということに向けられている。つまり、再生と聖化に向けられていて、他の面における御霊の広範囲な働きが無視されている。本書はクリスチャン生活以外の面の聖霊について新しい聖書研究が必要なこと、こうした理由から書かれている。
定価 1500円
鈴木英昭著
「著者のことば」
…。神の言葉としての聖書の真理は、永遠に変わりませんが、変わり続ける複雑な時代の問題に対して聖書を適用するためには、聖書そのものの理解とともに、生活にかかわる問題として捉えてはじめて、それが可能になります。それを一冊にまとめてみました。
定価 1800円
おすすめ本
C.ジョン・ミラー著
鈴木英昭訳
キリスト者なら、誰もが伝道の大切さを知っている。しかし、実際は、その困難さに打ち負かされてしまっている。著者は改めて伝道の喜びを取り戻すために、私たちの内的欠陥を取り除き、具体的な対応策を信仰の成長と共に考えさせてくれます。個人で、グループのテキストにしてみませんか。
定価 1000円
おすすめ本
ポーリン・マカルピン著
著者の言葉
讃美歌はクリスチャンにとって、1つの大きな宝物といえます。教会で神様を礼拝する時にも、家庭礼拝の時にも、友との親しい交わりの時にも、そして、悲しい時、うれしい時などに讃美歌が歌える特権は、本当に素晴しいことでございます。しかし、讃美歌の本当のメッセージを知るためには、主イエス・キリストと父なる神様への信仰、み霊なる神様への信頼が必要であります。また、作曲者の願い、讃美歌の歌詞の背景にあるもの、その土台である神様のみ言葉の聖書に触れ、教えられることも大切であります。ここには皆様が広く愛唱されている50曲を選びました。
定価 3000円