忍者ブログ
2023年7月号  №193 号 通巻877号
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 

 ビルマ

  戦犯者の獄中記  (48)  遠山良作 著

昭和22年

6月19日

同期生・・2・・

 これ程まで勉強しなければならない理由は、成績の悪い者は元の部隊に返されるからであった。休日の日曜日なども外出する者は少なく、誰の顔を見ても目ばかりギョロギョロと光っていた。

 5月には教習隊創立記念日行事があった。余興に「酒は涙か吐息か」の劇で、光江の相手役、女給の役で私も出演したことがあった。外部からお祝いのために沢山の人が来た。その中に混じって美しく着飾った女給さんや芸妓さんの艶姿は眩ゆかった。彼女たちから着物の着付けや、化粧をした私の女装の女役に喝采されたこともあった。

 思い出の多い教習隊8カ月の生活を終えて、真新しい憲兵の腕章を巻いて、喜びと希望に胸ふくらませつつ、各々命じられた任地に赴任したことが昨日のように思える。

 私は仲の良かったS君と共に青島(チンタヲ)隊に赴任し、ビルマにも一緒に来たが隊が違い、会うこともなかった。風の便りに彼は戦死したとも聞いていたが、S君とこの刑務所で偶然にも会うことが出来た。

 私が「モールメン」から移されて間もない時である。棚一つ隔てた隣りの棟に英軍の捕虜(終戦前に英軍に捉えられた日本兵)が収容されていた。その中に彼を発見した。彼等は私たちと話すことを好まなかったので、私は大声で「S君」と呼んだ。彼は監視兵の隙を見て棚の近くに来てくれた。そして「戦闘中にマラリヤと赤痢のために人事不省に陥っていたところを部落民に捕えられて、英軍に引き渡されて捕虜になった」と話してくれた。

 彼はきっと悩んだことだと思う。だが、戦争も終わりお互いに無事であったことを共に喜んだ。われわれ戦犯容疑者と違って、彼等の給与は格段に良かった。煙草やチーズなどを棚の外から時折り投げ入れてくれた。その後、私が有罪になり、独房に移されてから彼は一度も連絡してくれなかった。彼にはもう昔の友情はなくなった。

 やはり英軍の捕虜である引け目からかも知れないが、生死を共にし、戦場で結ばれた友情だけに残念である。彼は。第一回の帰還船で帰って行った。青島隊で共に勤務した同期生の絹村も死んだ。小林もこの間5年の刑を受けてこの独房に来た。

 戦犯容疑者として取調べのために残されている同期生はまだ20数名いる。北支那からは100名近い同期生がビルマに派遣されて来たのに幾人の者が祖国の土を踏むことが出来るであろうか。

  一羽のつばめ

 日本に生まれたつばめの群れは 夢の国ビルマに来た

 ここは砲火の飛び交う戦場である そのために多くの仲間は死んだ

 やがて戦争も終わり 日本に帰る日が来たのに 

傷ついた一羽のつばめは飛ぶ力さえない

 

雨しぶく木陰に身をよせて 励ます仲間たちに言った

「日本の田や畑も荒れている つばめが来てくれる日を待っている

あの美しい自由の天地で 益鳥としての働きを」と

降りしぶく空を仰いだ

 

私はこの詩を書いて、同期生たちに送った。

「註」「急性肺炎」は特効薬ペニシリンが発見されるまでは死亡率の高い病気であった。英国のチャーチル首相の肺炎がこの新薬発見で助かったことは有名な話である。

*この文章の転載はご子息の許可を得ております。

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
ブログ内検索
カウンター
★ごあんない★
毎月第一日更新
お便り・ご感想はこちらへ
お便り・ご感想くださる方は下記のメールフォームか住所へお願いいたします。お便りは「つのぶえジャーナル」の管理人のみ閲覧になっています。*印は必須です。入力ください。
〒465-0065 名古屋市名東区梅森坂4-101-22-207
緑を大切に!
お気持ち一つで!
守ろう自然、育てよう支援の輪を!
書籍紹介
    8858e3b6.jpg
エネルギー技術の
 社会意思決定

日本評論社
ISBN978-4-535-55538-9
 定価(本体5200+税)
=推薦の言葉=
森田 朗
東京大学公共政策大学院長、法学政治学研究科・法学部教授

本書は、科学技術と公共政策という新しい研究分野を目指す人たちにまずお薦めしたい。豊富な事例研究は大変読み応えがあり、またそれぞれの事例が個性豊かに分析されている点も興味深い。一方で、学術的な分析枠組みもしっかりしており、著者たちの熱意がよみとれる。エネルギー技術という公共性の高い技術をめぐる社会意思決定は、本書の言うように、公共政策にとっても大きなチャレンジである。現実に、公共政策の意思決定に携わる政府や地方自治体のかたがたにも是非一読をお薦めしたい。」
 共著者・編者
鈴木達治郎
電力中央研究所社会経済研究所研究参事。東京大学公共政策大学院客員教授
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授
松本三和夫
東京大学大学院人文社会系研究科教授
青木一益
富山大学経済学部経営法学科准教授
上野貴弘
電力中央研究所社会経済研究所研究員
木村 宰
電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
寿楽浩太
東京大学大学院学際情報学府博士課程
白取耕一郎
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程
西出拓生
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
馬場健司
電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
本藤祐樹
横浜国立大学大学院環境情報研究院准教授
おすすめ本

      d6b7b262.jpg
教会における女性のリーダーシップ
スーザン・ハント
ペギー・ハチソン 共著
発行所 つのぶえ社
発 売 つのぶえ社
いのちのことば社
SBN4-264-01910-9 COO16
定価(本体1300円+税)
本書は、クリスチャンの女性が、教会において担うべき任務のために、自分たちの能力をどう自己理解し、焦点を合わせるべきかということについて記したものです。また、本書は、男性の指導的地位を正当化することや教会内の権威に関係する職務に女性を任職する問題について述べたものではありません。むしろわたしたちは、男性の指導的地位が受け入れられている教会のなかで、女性はどのような機能を果たすかという問題を創造的に検討したいと願っています。また、リーダーは後継者―つまりグループのゴールを分かち合える人々―を生み出すことが出来るかどうかによって、その成否が決まります。そういう意味で、リーダーとは助け手です。
スーザン・ハント 
おすすめ本
「つのぶえ社出版の本の紹介」
217ff6fb.jpg 








「緑のまきば」
吉岡 繁著
(元神戸改革派神学校校長)
「あとがき」より
…。学徒出陣、友人の死、…。それが私のその後の人生の出発点であり、常に立ち帰るべき原点ということでしょう。…。生涯求道者と自称しています。ここで取り上げた問題の多くは、家での対話から生まれたものです。家では勿論日常茶飯事からいろいろのレベルの会話がありますが夫婦が最も熱くなって論じ合う会話の一端がここに反映されています。
定価 2000円 

b997b4d0.jpg
 









「聖霊とその働き」
エドウイン・H・パーマー著
鈴木英昭訳
「著者のことば」より
…。近年になって、御霊の働きについて短時間で学ぶ傾向が一層強まっている。しかしその学びもおもに、クリスチャン生活における御霊の働きを分析するということに向けられている。つまり、再生と聖化に向けられていて、他の面における御霊の広範囲な働きが無視されている。本書はクリスチャン生活以外の面の聖霊について新しい聖書研究が必要なこと、こうした理由から書かれている。
定価 1500円
 a0528a6b.jpg









「十戒と主の祈り」
鈴木英昭著
 「著者のことば」
…。神の言葉としての聖書の真理は、永遠に変わりませんが、変わり続ける複雑な時代の問題に対して聖書を適用するためには、聖書そのものの理解とともに、生活にかかわる問題として捉えてはじめて、それが可能になります。それを一冊にまとめてみました。
定価 1800円
おすすめ本
4008bd9e.jpg
われらの教会と伝道
C.ジョン・ミラー著
鈴木英昭訳
キリスト者なら、誰もが伝道の大切さを知っている。しかし、実際は、その困難さに打ち負かされてしまっている。著者は改めて伝道の喜びを取り戻すために、私たちの内的欠陥を取り除き、具体的な対応策を信仰の成長と共に考えさせてくれます。個人で、グループのテキストにしてみませんか。
定価 1000円
おすすめ本

0eb70a0b.jpg








さんびか物語
ポーリン・マカルピン著
著者の言葉
讃美歌はクリスチャンにとって、1つの大きな宝物といえます。教会で神様を礼拝する時にも、家庭礼拝の時にも、友との親しい交わりの時にも、そして、悲しい時、うれしい時などに讃美歌が歌える特権は、本当に素晴しいことでございます。しかし、讃美歌の本当のメッセージを知るためには、主イエス・キリストと父なる神様への信仰、み霊なる神様への信頼が必要であります。また、作曲者の願い、讃美歌の歌詞の背景にあるもの、その土台である神様のみ言葉の聖書に触れ、教えられることも大切であります。ここには皆様が広く愛唱されている50曲を選びました。
定価 3000円

Copyright © [   つのぶえジャーナル ] All rights reserved.
Special Template : シンプルなブログテンプレートなら - Design up blog
Special Thanks : 忍者ブログ
Commercial message : [PR]