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2023年7月号  №193 号 通巻877号
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 ビルマ

  戦犯者の獄中記  (54)  遠山良作 著

昭和22年

 9月4日

  タキン党事件の裁判の状況・・2・・

 憲兵が住民のうちゲリラ活動の容疑者約80名を逮捕して取調べ、そのうち容疑のない者、容疑があっても軽微な者約54人を釈放し、容疑が証拠により明らかで、かつ重要な役割をした人物26名の処分についてビルマ方面軍参謀長四手井綱正中尉(終戦前印度チャンドラボースと共に飛行機事故で死亡)の命令で、やむを得ず憲兵が殺害に至った事情を立証した(中略)。93日、多数の英軍将校、および、遺家族らの傍聴するラングーン軍事法廷において、英軍の「ラーマン」中尉によって弁護団の作成した弁論が朗読された。

 弁論の要旨は、本件被告らによるビルマ人政治家26人を処刑した理由は、占領地の住民であるビルマ人らの日本軍に対する違法行為を中止させ、現に行いつつある違法行為を予防するためにやむを得ず戦時復仇として行ったのであるから、戦争犯罪とはならない合法的な行為である。もし戦時復仇が認められないとしても、本件の被害者26人はいずれも日本軍に対してゲリラによる敵対行為をなし、戦時犯罪を犯した者である。

 当時、憲兵はゲリラ活動の容疑者ビルマ人80人位を逮捕して取調べ、容疑のない者54人を釈放し、容疑が証拠により証明され、かつ重要人物26名だけをビルマ方面軍司令部の命令によって処刑したのであるから、その刑は減軽さるべきである。被告らに対しては、なにとぞ御寛大なる裁判をお願いします」。

 検事側論告の要旨は

 「本件の公訴事実については、検事提出の証拠書類の記載、検事側証人および被告人全員の証言によりその証明は十分である。本件の被害者26人は軍事裁判を受けることなく、すなわち弁護の機会を与えられることなく、被告人等に殺害されたのであるから、弁護人は戦時復仇を主張したが、本件被告人らによるビルマ人26人の処刑は秘密に行われたものであるから、戦時復仇は認められない。したがって被告人等を厳重に処罰すべきである。」

 弁護側はあらかじめ用意していた情状証人を出廷させて被告人等の情状を立証した。とくに、ビルマの貿易商ニザミ氏が被告久米大佐のために次の証言をした。

 「久米大佐は非常に立派な憲兵司令官でありました。ビルマ民衆をいたわってくれました。私が戦時中スパイの嫌疑を受け、日本軍憲兵に逮捕されましたが、久米大佐に助けられました。なにとぞ久米大佐をご寛大に御願い致します」と。その他被告のためにも情状証人を出して、各被告の情状およびその性格等を証言した。

 続いて裁判長は、被告人等に最後の陳述の機会を与えた。その際、被告久米大佐は裁判長に対して「私の部下達は私がビルマ人26名の処分の命令を下したため、これを実行したのであります。もし私が命令を下さなかったならば部下達はビルマ人26名の処分をしなかったのです。したがって責任は全て私にありますから、私はどのような厳重な処分を受けてもかまいません。部下達にはなにとぞ寛大にお願いいたします」と陳述した。これを受けて、部下の将校たちもその部下、下士官、兵ら被告をかばった。

 かくして23日間にわたる裁判は終了したのである。

 「註」 外山林一弁護士は現在甲府市で弁護士として開業中です。

*文章の転載はご子息の許可を得ております。

 

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