2017年12 月号 №125 通巻811 号
   小閑記
       
   「パウロとエルサレム」(Ⅰ)
      (ローマ書15:30~33)
 
 パウロの戦いは、生やさしいものではありませんでした。パウロにしてみれば、これなどは取り立てて言うほどでもなかったかも知れませんが、だれもが経験するようなものではありませんでした。ローマ人への手紙の背景に、このような凄惨な戦いを、だれが予想したでありましょう。
 問題は、エルサレムのユダヤ人たちによる迫害であります。エルサレムは、教会の発祥の地であります。福音は、ここから宣べ始められました。パウロも、直ぐ前に、「わたしはエルサレムから始まり」(15:19)と言って、自分の伝道の起点がエルサレムであることを示していますし、伝道旅行の帰りには、必ずエルサレムに立ち寄りました。今度も、この手紙を書いた後で、帰途に就くのですが、その時、やはりエルサレムに向かうことになっているのです。
 ことに、外地に教会からの多くの贈物まで持って行こうと言うので、パウロはエルサレムの教会のことをどんなに思っていたかが分かるのであります。
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 ところが、エルサレムの事情は、パウロの気持ちや熱心とは、全く反対の方に動いておりました。それは、この旅から帰ったパウロがエルサレムで捕らえられた(使徒21:27~36)のをみても想像のつくことであります。パウロは、それをよく知っております。有名なミレトの別れの言葉の中にも(使徒20:17~38)、パウロは、エルサレムでの迫害を予想し、「わたしの顔を、二度と見ることはあるまい」と言ったのでみんなの者が泣いたと書いてあります。
 ところが、この平静に書かれたとみえる手紙の終わりに、彼自身の筆で、そのことが書かれたのであります。つまり、是非祈って欲しいことの内容として、「わたしがユダヤにおける不信の徒から救われ」るようにと書いてあります。救われると言うのはおだやかな言葉ではありません。しかし、パウロが予感しうる限りでは、救われるという言葉を使う必要なほどに、切迫した事情であり、悲しいことが待ち受けていたらしいのであります。リーツマンのような冷静な注解者さえ、「使徒会議があったにも関わらす、エルサレムの人々の異邦人キリスト者教会に対する反対は、考えられる限りのもっとも激しいもの」と申しております。
 パウロはなぜそんなに嫌われたのでしょうか。先ず、ユダヤ人たちの反対があったことでしょう。パウロは、ユダヤ教の熱心家であり、教会を迫害までした人でありましたが(ピリピ3:6)、やがて回心して福音を信ずるようになり、伝道者になったのであります。したがって、ユダヤ教の人々から言えば、到底許すことの出来ない反逆であると言うことになりましょう。だから、教会さえ機会があれば、彼を捕らえて、あわよくば殺してしまいたいと思ったのです。
 現に、捕らえられたパウロが、エルサレムからカイザリヤに護送される時に、40人あまりの刺客を用意したと使徒行伝には書いています。パウロが不信の徒から救われるように祈って欲しいと言ったのは、決して誇張ではなかったのであります。
 
 
 
 
   竹森満佐一著「ローマ書講解説教」(新教出版社)
 
                上河原立雄撰 
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