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2023年7月号  №193 号 通巻877号
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 ビルマ
  戦犯者の獄中記  (31)  遠山良作 著

昭和22年
1月4日
どんな理由であるのか分からないが、二ヶ月近くいたこの西独房から、突然、東独房に移されることになった。4名(林大尉、小川軍曹、斉藤伍長と私)は、宮崎中将たちに別れを告げて、再び懐かしい東独房に移った。僅か二ヶ月の間であったが長い間どこかに行ってきたかのような気がする。どの友を見てもみんな懐かしい。何日まで続くか分からないが、厳しいこの獄での生活を共に過ごしてゆく決意を新たにする。
 神に祈ろう
コンクリートに囲まれた獄房 光もない
くらやみの中で 一人坐っている
故郷のことが脳裏に浮かぶ
幼き頃の思い出の数々
戦の中で死んでいった友
敗戦の悲運に泣いている
大きな声で呼んでも 誰も助けてくれない
神様に祈ってみよう 助けて下さるかも知れない                  

3月25日
―聖書送られる―
「トヤマ」という英人独特の発音で私の名前で呼びに来た。取調べのためかなと思ったが、通訳がいないので変だな、と思うと、英人は手に持っている小さな包みを私に渡してくれた。
敗戦以来、一カ年半以上も祖国日本との文通は絶えていた。初めて受け取る懐かしい祖国からの贈物である。すでに封は切られていた。紙包みの中には一冊の新約聖書と手紙が入っている。差出人は生まれ故郷である恵那市長島町中野の伊藤庄太郎と書いてある。私の知らない人である。手紙には「あなたは今ビルマの刑務所におられる由、お母さまから御聞きしました。誠に御気の毒だと思います。この聖書もお母様から依頼されて送りますが、どうかこの聖書を読んで救われてくださることを祈る」等の内容である。
生まれて初めて見る聖書である。私たちが戦犯者として裁かれるに当たり、裁判官は先ず聖書に宣誓してから開廷したことを覚えている。そして今一つはモールメン刑務所において、クリスチャンであった加納衛生兵がひん死の重病患者の若林大尉を懸命に看護したことも覚えている。
聖書に対する不信とキリスト者加納衛生兵に対する好感が私の心の内を複雑な思いにした。母から依頼されて送られた聖書とは一体如何なることが書いてあるかと思って開けて見た。私はこの時聖書を読むというより、長い間日本語の活字に飢えていた心をみたしてくれたのである。
入獄以来一切の読物を取り上げられて、毎日二畳半程の独房での生活で何もすることがない生活をしていると、とにかく日本の文字は懐かしく感じるのである。
聖書の表紙を開くと「我らの主なる救主イエスキリストの新約聖書」聖書協会聯盟とある。一頁の「マタイ傳福音書」は一頁近くにわたって「カタカナ」で外国人の名前が書いてある。どうやら系図らしいが、何のために書いてあるのかわからず、飛ばして読む。続いて処女マリヤがイエスを生んだ記事である。処女が子供を生むことはあり得ないことである。日本の物語に出てくる神話と同じで、馬鹿らしくて読む気がしなくなる。それでもと思って続けて読むと、悪魔がイエスを山の上に連れて行って試みる物語である。ここもよく理解出来ない。そしてイエスが病人をいやしたことも書いてあるが、日本にもこんな神がかりな教祖が幾人もいたと思う。珍しくないことである。
今日読んだことで一番分からないことは、「悪しき者に抵抗ふな。人もし汝の右の頬をうたば左を向けよ」「汝の仇を愛し汝らの責めた者のために祈れ」と書いてある。
もし理由もなく他の人が私の頬を打ったなら、私は当然相手の頬を打ち返すであろう。決して悪いことだとは思っていない。また、自分の仇として憎むのが人間の本来の姿であり、昔、武士の世界では親の仇を討つことは美徳とされていた時代さえあった。聖書は何故こんなことを書いているのか理解出来ない。
初めは母親から送られたことと加納衛生兵のことを思って読む気になったが、すこし読んだだけでもういやになってしまった。そして聖書をポンと閉じて片隅に置いた。

この文章の転載はご子息の許可を得ております。
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書籍紹介
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 社会意思決定

日本評論社
ISBN978-4-535-55538-9
 定価(本体5200+税)
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鈴木達治郎
電力中央研究所社会経済研究所研究参事。東京大学公共政策大学院客員教授
城山英明
東京大学大学院法学政治学研究科教授
松本三和夫
東京大学大学院人文社会系研究科教授
青木一益
富山大学経済学部経営法学科准教授
上野貴弘
電力中央研究所社会経済研究所研究員
木村 宰
電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
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東京大学大学院学際情報学府博士課程
白取耕一郎
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程
西出拓生
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
馬場健司
電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
本藤祐樹
横浜国立大学大学院環境情報研究院准教授
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スーザン・ハント
ペギー・ハチソン 共著
発行所 つのぶえ社
発 売 つのぶえ社
いのちのことば社
SBN4-264-01910-9 COO16
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本書は、クリスチャンの女性が、教会において担うべき任務のために、自分たちの能力をどう自己理解し、焦点を合わせるべきかということについて記したものです。また、本書は、男性の指導的地位を正当化することや教会内の権威に関係する職務に女性を任職する問題について述べたものではありません。むしろわたしたちは、男性の指導的地位が受け入れられている教会のなかで、女性はどのような機能を果たすかという問題を創造的に検討したいと願っています。また、リーダーは後継者―つまりグループのゴールを分かち合える人々―を生み出すことが出来るかどうかによって、その成否が決まります。そういう意味で、リーダーとは助け手です。
スーザン・ハント 
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「つのぶえ社出版の本の紹介」
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 「著者のことば」
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おすすめ本
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